26.私と同じ悩みを抱えた人。

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26.私と同じ悩みを抱えた人。

あれから1年、平民街に学校が開校した。 元々、皇家の持ち物だった建物を改築したので早くに開校することが可能になった。 私は14歳、ユーリ皇子は18歳、ルーク皇子は15歳の時のことだ。 私は子供ながらに学校で教鞭を執っている。 ルーク皇子も特別講師ということで不定期で教師として学校に赴いてくれた。 「イサキという生徒がいるのですが、前も他の子とトラブルを起こしていました。突然、大きな声を出したりして、他の子も戸惑っています」 ルーク皇子の言葉に私はため息をついた。 イサキは16歳になる平民の男の子だ。 目までかかる伸ばしっぱなしの黒髪に黒い瞳を持つ彼は、ひょろっと背が高く猫背でいつも歩いている。 彼の変わった歩き方と、彼の持つ独特な暗い雰囲気は異質で注目を集めていた。 彼はペーパーテストでは必ず満点をとっていた。 記憶力がずば抜けて高く、とても優れた頭脳を持っている。 周りの子達とのトラブルが絶えないこと以外は、問題がない生徒だ。 「ルーク皇子殿下、イサキが大声を出してしまう原因は何だと考えますか? 」 「よく、分かりません。他の子が近くに来たとかそういうことで嫌だったと本人は言ってました」 「イサキは優秀な子です。学校の勉強も簡単過ぎるのかもしれません。彼は帝国の宝になる人間だと私は思ってます。彼は16歳です。帝国の行政部で彼に仕事を与えることはできませんか? 」 イサキは恐らく知的遅れを伴わない発達障害だ。 そして、一度見たものを忘れない記憶力を持っている。 それは岩田まりなとも同じだった。 対人関係が苦手な私は、しばしばイジメのターゲットになった。 ちょっかいを出された時の反応が、普通の人間と違うので面白かったのだろう。 恵麻は私は感情を持っていないと思っているのか、傷つくような言葉をたくさん浴びせた。 傷ついても私はそれに反論する訳でもなかった。 反論しても、彼女は変わらないという結論を既に私の中で出していたからだ。 対人が苦手な私が教師になりたいなんて間違っているのかもしれない。 しかし、私はどう言うことを言ったら人を傷つけるかなど、頭の中でフローチャートを作り全てを避けられるようにしている。 その場しのぎのいい加減なことを言って立ち回る連中より、苦しんでいる子を良い方向に導けると思っていた。 「確かに、ペーパーテストは優秀ですが、人とトラブルを起こす人間ですよ。行政部でやっていけるでしょうか? 」 「トラブルの原因は同級生のイジメです。異質な彼に対して、故意にこっそり嫌がらせをしている子達が存在します。彼が大袈裟に反応するのが面白いのでしょう。生まれた時は無垢なのに、人はどんどん残酷に育つものですね」 ルーク皇子殿下の疑問はもっともだ。 しかし、これまで見てきてイサキに関して言えば、彼自身は世の役に立ちたいと本気で思っている真面目な子だ。 でも今のままでは周りの子のストレス解消に使われて、彼の能力は活用されずに終わってしまう。 「嫌がらせを受けていたのですか? 気がつきませんでした」 ルーク皇子殿下が気がつかないのは当然だ。 周りの子は大人に分らないように嫌がらせをする賢さを持っている。 私が気がつくのは「岩田まりな」時代に、私が嫌がらせをされてきた当事者だったからだ。 「ご自分を責めないでください。然るべき場所にイサキを連れていけば、彼は力を発揮できると思います。とりあえず、皇宮での移動先が整うまでは彼にこれを渡してください」 私は1日の行動の流れと、何か起きた時の対策をフローチャートにしたものをルーク皇子に渡した。 「これは何ですか? 」 「イサキは予測不可能な周りの人間の行動が苦手です。次に何が起こるか分かれば気持ちが落ち着きます。周りからちょっかいを出された時の対策もフローチャートにまとめました。トラブルの対策が事前に分かっていれば、上手く対応できると思いますよ」 イサキの記憶力を考えると、一度見ればこのフローチャートを覚えるだろう。 周りの行動の予測ができれば、彼自身も周りの余計な刺激に過剰な反応をすることが減る。 周りは彼の反応が薄くなれば、イジメに飽き出す。 今のイジメは他から見ればちょっかい程度だが、感覚過敏なイサキにはキツいものだ。 だから、イサキ側が対策をして仕舞えば、このイジメは終わる可能性が高い。 イジメている側を召集して彼らを叱りたいが、彼らの態度が改善することは難しい。 私は「岩田まりな」として生きていく中で、人はなかなか変わらないと言うことを学んだ。 「赤ちゃんからの友達」と言う呪いで結ばれた恵麻は、出会った時から最後に会った時まで私を弄んで遊ぶ悪魔だった。 何度か彼女の意地悪な言動や振る舞いに反論したことはあるが、彼女の態度は変わらなかった。 「分かりました。イサキに渡してみます。それにしても、マリーナ姉様はすごいですね。図書館の蔵書もあっという間に丸暗記してしまいました」 人並外れた記憶力は私が普通でないことの証だったりする。 このような記憶力などいらないから、もっと周りと上手くやれる人間になれたらと思ったこともあった。 それも、侑李先輩と出会うまでの話だ。 先輩と話が合うのは自分が普通ではないからだと思ったら、変人でよかったと思えた。 侑李先輩が私に拘ったのは、彼もまた私と同じ悩みを抱える人間だったからだ。
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