28.変わり者の彼女。(ユーリ視点)

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28.変わり者の彼女。(ユーリ視点)

ユーリ・ハゼが18歳で成人したのに伴い、俺の婚約者を決めるため今日から1週間婚約者候補が皇宮に滞在する。 俺が生涯を共にしたい相手は、1年も前からマリーナと決まっている。 彼女以外の選択肢など存在しない俺に、彼女以外の女を選ぶように強いる1週間の始まりだ。 俺の陰鬱な気持ちをよそに、マリーナは俺の支度を整えていた。 彼女の教師になりたいという夢を叶えたくて平民向けの学校を建てた。 平民にも教育の機会を設けたいという気持ちは元から持っていたが、きっかけはマリーナの夢を叶えることだ。 でも、学校ができたことでマリーナと俺が一緒に過ごす時間は極端に減った。 弟のルークとの方が彼女と過ごす時間が多いことに嫉妬してしまう。 実際2人の方が年も近く、お似合いに見えることも多い。 「ユーリ皇子殿下、もうすぐ、婚約者指名の晩餐会の時間です」 気が付くと俺の衣服はマリーナによって整えられていた。 彼女はとても仕事が丁寧で素早い。 今日は、婚約者候補として2人の王女と、マリーナおすすめである聖女エマ・ピラルク男爵令嬢がくる。 「マリーナ、そういえば『おたまじゃくしチカの冒険』はどうして主役がおたまじゃくしなんだ?」 俺はマリーナの願うことは全て叶えてあげたいと思っていた。 彼女は教師になりたいという以外にも、作家になりたいという夢を持っていた。 マリーナをベストセラー作家にしてあげたいのだが、彼女の書く物語は癖が強すぎる。 「おたまじゃくしとは精子のことではありませんよ。おたまじゃくしは変態してカエルになります。私の書いた主人公は池に住むおたまじゃくしの物語です」 マリーナは淡々と俺に告げてくる。 相変わらず彼女の発言がぶっ飛んでいる。 彼女は他の女と比べてはいけないレベルの変わり者だ。 知識も豊富で優秀だが、自己肯定感が異常に低い。 そして、美形と評判な俺の誘惑にも全く動じない。 でも、俺は彼女の癖のある性格がツボだったようだ。 知れば知るほど、関われば関わるほど彼女にハマってく。 (変態はお前だマリーナ。誰も精子を主役にしたストーリーとは思っていない⋯⋯) 「カエルの赤ちゃんの話だって分かってるよ。ただ、もっと身近な生物を主役にした方が親近感を感じられて良いのではないかと思うんだ。例えば犬とかが宝物を探す冒険の話とかはどうだ? 」 「主人公のおたまじゃくしのチカは親から逸れてしまいますが、自分と姿が全く違うカエルの姿をした親を見つけられません。しかし、最後には親を探すことを諦め自立します。この物語は親と子は別の存在で、子は親の所有物ではなく、子も親には従属しないということを伝えたいのです。犬の宝物とは人間への忠誠心ですか? 」 マリーナは俺に『おたまじゃくしチカの冒険』の作品を書いた意図について説明してくる。 彼女は良いと思って書いた話なんだろうが、もっとスッキリした話の方が読みやすいと思う。 「いや、そんな小難しいものじゃなくて、宝物は美味しい餌とかで良いんじゃないかな」 彼女の創った物語である契約婚の話も変だったが、子供向けの動物を主役の話を書かせても変だ。 マリーナの頭の中はどうなっているのか一度明らかにしたい気持ちもあるが、迷宮のような彼女の中に迷い込んでいたくもある。 「なるほど、確かに犬の人間への忠誠心が評価されるのは、人間の傲慢ですね。犬にも従属しない己の本能や、目指したい夢があるはずです」 マリーナが相変わらず淡々と語ってくる。 彼女がものすごく真剣な表情で犬の思想を想像しているのが楽しい。 俺は彼女といると笑いそうになるのを堪えるのが難しい。 (マリーナとの会話が楽しすぎて、他の人間との時間がつまらなくなった⋯⋯) 「じゃあ、今度は犬が主役の物語を書いてみてくれるか? 」 「ユーリ皇子殿下のご所望とあらば」 マリーナが胸に手を当て深くお辞儀をしている。 俺は彼女を妻にして、共に生涯を過ごしたいと考えている。 しかし、彼女は俺に隷属する奴隷であるいう姿勢を崩さない。 全ては俺が彼女の国を攻めて、彼女を奴隷に堕としたせいだ。 (リラ王国を攻めずに、最初からマリーナ王女を婚約者として迎え入れればよかった⋯⋯) 俺は何度も後悔したが、彼女が敗戦国の元王女で今は帝国の奴隷だという立場は変わらない。
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