31.一番の容疑者は私です。

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31.一番の容疑者は私です。

「ユーリ皇子殿下、騎士に剣をおろさせてください。私もアリア王女が毒を入れたのではないと思います。このワインに毒を入れたら真っ先に疑われるのは彼女です」 ユーリ皇子殿下はアリア王女が犯人である可能性が低いことに気がついたようだ。 帝国の騎士に剣を下ろすように合図を送っている。 「この場合、一番の容疑者はワイン飲まない婚約者候補である未成年の私です」 私の言葉にユーリ皇子殿下は困ったような顔をする。 私は客観的事実を述べただけだ。 シロギス産のワインから毒が出たら、疑われるのはアリア・シロギスだ。 しかし、皇子殿下と婚約することを目的に訪れている彼女がそのようなことをする理由は見つからない。 彼女を陥れようとする他の婚約者候補の仕業だと考えるのが妥当だろう。 そして、列席者の中で未成年である私だけは毒入りワインが注がれていない。 「相変わらず、おかしな女だな。お前は本当に毒のような女だ。食欲が削がれた。今は一番美味しそうな毒のようなお前が食べたい」 厨二病のようなセリフを吐いたユーリ皇子殿下は、私にそっと軽く口づけをした。 彼は何を考えているのだろうか、14歳の子供に口づけをする変態だと周りに見せつけている。 「ユーリ皇子殿下、くだらない遊びはそこまでです。まずはコルクを調べましょう。銀が黒く変色したということは毒物であるヒ素が注入されている可能性があります」 毒がワインに入っていて疑ってしまう相手は私以外にもいる。 それは、毒を浄化する能力を持つ聖女エマ・ピラルクだ。 殿下が毒に侵されれば、それを浄化する聖女の力を見せつけることで自分の価値を示すことができる。 私は、エマ・ピラルクに対する疑惑の感情を抑え込んだ。 彼女は恵麻ではないのだから、私怨を持った私が疑いを向けてはならない。 ユーリ・ハゼがどのような危機に瀕しても助けられるのは聖女の力を持ったエマ・ピラルクだ。 私と同じように彼女を容疑者と考える人間が出てくるだろう。 「皇子殿下、コルクに細い穴が空いております」 コルクを点検した従者がまるで歴史的大発見をしたように告げてくる。 穴が空いていたことが問題なのではない、問題は誰がこの穴を開けたかだ。 指紋を鑑定したりできない世界は犯人の特定が難しく、本当に不便だ。 疑いがある人間を1人1人潰していかなければならない。 私は一連のトラブルを精悍するように見つめるエマ・ピラルクに、理不尽な疑いの目が向かないよう努めようと決意した。 (エマ・ピラルクは聖女の力を持っている⋯⋯それはユーリ皇子にとって必要な力だから、彼女を疑うのは最後の選択肢にしよう)
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