41.私が戦うべき現実。

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41.私が戦うべき現実。

「全くまりなは体調管理一つできないんだから本当に迷惑」 ユーリの口づけを待って目を閉じていたら、聞きたくない姉の声が聞こえてきた。 私はいつからか自分が都合の良い夢を見ていることに気がついていた。 教師になって自分と同じような困難を抱える子を助けたかった。 尊敬した先生が薦めてくれた作家になるという夢を機会があれば叶えたかった。 そして、愛する人と想いあって一緒になりたかった。 しかし、そのように全てのことが上手くいく世界など存在しない。 それは私が40年生きていて痛いほど実感していることだった。 思ったようにはいかない、息苦しい水の中にいるような人生だ。 私が人生で幸せを感じたのは高校時代過ごした侑李先輩との図書室でのひと時だけだった。 彼の前では私は対人フローチャートを捨て、自然体だった。 5年もの年月、ユーリに溺愛される夢を見るなんて私は本当に侑李先輩を諦められていない。 (もう一度彼に出会えたら、この胸に24年間秘めていた思いを伝えたい⋯⋯) 「お姉ちゃん、お見舞いに来てくれたの? 」 目を開けて最初に目にしたのは不機嫌そうな姉の顔だった。 その姉の意地悪な顔がこれが現実だということを私に突きつけてくる。 夢の世界なら、姉は倒れた私を優しく労ってくれるはずだ。 姉はそのような姿を見せたことがないので、いくら5年の時を妄想できる私でも優しい姉は想像するのは難しい。 「やっと起きたの? 私がまりな何かのお見舞いに来る訳ないでしょ。あんたが倒れたせいでお母さんから私に連絡があったのよ。あんた2日も目が覚めなかったのよ。ベッドで2日間もゴロゴロして、いいご身分よね」 姉は私を睨みつけるなり、ナースコールを押した。 「すみません、妹が目覚めたので来てください」 看護師さんが来るなり姉は不機嫌そうに言った。 「今すぐにでも退院手続きしてもらえますか?」 「いえ、2日も意識がなかったので検査をしてからの退院になります」 看護師さんが困ったような顔をして私の様子を伺っているが、姉は引かないだろう。 本当に恥ずかしいくらい常識のない姉だ。 「検査なんてしなくても良いです。絶対しなきゃいけないものなら、退院してから病院に通わせます。とにかく、今日中に退院させてください」 姉は私が動きさえすれば、私の体調なんてどうでも良いと考えている。 彼女の冷たさに傷つき、自分が感情のないゼンマイ仕掛けの人形だったら楽だったと何度考えたことか。 しかし、私はもう自分の家族への期待は全く失っている。 願わくばこの非常識で冷酷な毒家族と縁を切りたい。 「分かりました。先生に相談してきます」 看護師さんが困った表情で病室を出ていった。 非常識なクレーマー対応をさせてしまって、申し訳ない気持ちになる。 姉が私を早く退院させたいのは、両親の介護をさせたいからだろう。 「自分の親なんだから、お姉ちゃんが介護したら?私はもう無理だよ。それかお金を出し合って施設に入れるとか」 私はもう17年以上親の介護をしている。 正直、親が死なない限り解放されないと思っていた。 このようなことを考えるのは冷たいし最低だから、考えないようにしていた。 しかし、私が倒れている間、見た夢には私の願望がしっかりと反映されていた。 良い子ぶりっこも捨てた偽りざる願望が出て、ユーリ・ハゼにマリーナの家族を全滅させたのだ。 「お父さん達を、施設に入れるとか可哀想でしょ。自分の親なんだからまりながちゃんと面倒見なさいよ」 「お姉ちゃんにとっても自分の親だよね。ずっと、家族に奴隷扱いされてた私はもう親に対して何かしてあげたいと思えないんだ。早く死んで欲しいとさえ思う」 私の本音を聞いて姉が驚愕するのが分かった。
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