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43.ずっと忘れられなかった人。(侑李視点)
早瀬侑李は小学校では空気が読めないといって弄られることが多かった。
中学になって、人と関わるのが面倒になって黙っていたら女子にモテ出した。
気がつけば、クラスの女子のほぼ全員から告白されていた。
「ユーリ王子も田代恵麻ちゃんが気になるの? 可愛いよな。小柄でふわふわした感じで」
高校では俺は「ユーリ王子」というあだ名にされていた。
そして、みんなが可愛いという新入生の田代恵麻に俺は全く興味が湧かなかった。
「隣の子は誰? 」
(申し訳ないが、俺には周りの美醜の基準が分からない⋯⋯隣の涼やかな子の方が恵麻という子より美しく見えるし気になる)
俺が初めて岩田まりなを見た時、彼女はサンドイッチの製造元のシールをガン見していた。
(俺も製造元や合成調味料が気になるが、彼女も同じなのだろうか⋯⋯)
「主席で入学した子かな?確か、岩田まりなとかいう名前だったような」
恵麻という子は平気でゴミを地面に落とし、岩田まりなが当たり前のようにゴミを拾った。
学校で気になった岩田まりなの行方を追っていると、中休みに図書室に行っているのがわかった。
初めてまりなを知った時から、俺は彼女に囚われていた。
中休みに図書室に行けば会えると思い、毎日のように図書室を訪れた。
彼女に関われば関わるほど惹かれていった。
初めて人と一緒に過ごしたいと思って、彼女と付き合いたいくて毎日のように愛を囁いた。
人を口説いたことないから、自分のルックスを最大限利用して彼女に迫った。
しかし、虚言癖のある彼女の親友を批判したら、そこから彼女に避けられてしまった。
俺は、1年半近く毎日のように口説いていた岩田まりなに振られた。
どのようにしたら彼女の心を捉えられるのか全く分からなかった。
そして、俺を振った岩田まりなは暫くして同級生の男と付き合い出した。
俺は傷心のあまり、渡米することにした。
そのままアメリカで大学を卒業して医師になった。
その後、何度か他の女とうまく付き合おうとしたが時間の無駄だった。
誰かと一緒にいるのがつまらないいうより、苦痛に感じた。
周囲から縁談をたくさん持ってこられたが全て断った。
仕事に没頭している方が楽しかった。
唯一自分が好きになった「岩田まりな」のことが20年以上経っても忘れられなかった。
ある日、ネットで彼女の名前を検索すると素人投稿サイトで小説を書いていることがわかった。
皆が明らかにペンネームで投稿しているのに実名で投稿しているのも彼女らしくて笑えた。
しかし、その小説の内容が全く笑えなかった。
中世西洋なのに、水族館にいるような魚の名前ばかり登場する小説は魚好きの彼女らしかった。
同姓同名ではなくて、癖のあるその小説は絶対に俺のまりなの書いたものだと思った。
(苗字が、岩田のままだということは、まだ結婚していないのだろうか⋯⋯)
彼女が書いたであろう『救いの聖女』の主人公ユーリ・ハゼは明らかに俺がモデルだった。
そして、なぜか俺が一番嫌いなタイプの女、田代恵麻をモデルにしたエマ・ピラルクとくっつけられている。
そのようなエンディングにするなら、みな、最後は魚になって海か川に還っていった方がましだ。
そもそも、主人公がヒロインの笑顔と優しさに惹かれているところも納得いかなかった。
俺は見た目が良いからか、大抵の女は俺に対しては優しく、笑顔で接してくる。
(笑顔で、優しく接して来なかったのは岩田まりなだけだ⋯⋯)
優しさや笑顔に惹かれるような単純さを自分が持っていたら、どれだけ楽に生きられたことか。
俺は岩田まりなの持つ独特な感性が好きだった。
自分と波長がピッタリ合っていて、俺には彼女しかいないと思った。
人生で一番必死に人の気を引こうと頑張ったのに、彼女は全く俺になびかなかった。
(でも、俺はまだ岩田まりなに会いたい。彼女が俺を好きにならなくても一緒にいたい)
俺が岩田まりなに思いを馳せていた時に、日本から手術依頼があった。
もしかしたら、まりなに会えるかもしれないという期待を込めて俺は日本に飛び立った。
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