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44.彼女に近づくな!(侑李視点)
「ありがとうございます。先生のお陰です。さすが、スーパードクター、ユーリ・ハヤセですね。すぐに、アメリカに帰られるんですか? 」
日本の手術依頼は切断された指をマイクロサージェリー法で再建することだった。
少し前にアメリカの病院に日本のテレビ局が俺を取材したいとやってきた。
その時、俺のことをスーパードクターとして紹介したらしく、今回の依頼に繋がったらしい。
(まりなが俺のことを特集した番組を見てくれてたら嬉しいんだけどな⋯⋯)
「会いたい人会ったら、アメリカに戻るつもりです」
廊下を通っている途中に争っている声が聞こえた。
「誠一の子じゃないじゃないか! こんな目が青い子が生まれるなんて! だから、私は指がなくても岩田さんにしとけって言ったんだよ」
老齢の女性の声が聞こえるが、嫁の托卵が発覚したのだろう。
「ふざけんなよ!恵麻!離婚だ!離婚!」
「離婚するなら、慰謝料と養育費払ってよね。私たち結婚してるのよ」
「なんで、俺の子じゃねえのに、俺が養育費払わなきゃいけないんだよ! お前のせいでまりなと別れる羽目になったんだぞ。まりなと結婚しておけば親父の介護も任せられたのに。お前は何もしないし、金遣い荒いし、嘘ばっかつくし最低だよ」
「よく言うわよ、指がないまりななんて気持ち悪いって言ってたくせに。高校の頃から好きだったのは私だけだとか言って自分で彼女を捨てたんでしょ」
俺は会話の内容から、俺の一番嫌いな女、田代恵麻となぜか岩田まりなと付き合えた男である誠一の会話と推測した。
(こいつらを、絶対にまりなには近づけさせない! )
ノックして扉を開けると、大部屋で他の人間の迷惑も考えずに騒ぎ立てるアホ女恵麻と誠一と彼の母親がいた。
「え、今何かドラマの撮影ですか? 俳優さんですか? 」
「スーパードクターのユーリ・ハヤセですよね」
俺を見た途端、一気に大部屋の患者さんたちが騒ぎ始めた。
俺はルックスが良いので、いつも最初に騒がれる。
昔は口を開くとイメージと違うとがっかりされた。
でも、今は進んで言いたいことを言うことにしている。
それで、少しでも見た目で寄ってくる女が減ってくれれば楽だ。
(まりなが惚れてくれないなら、見た目なんてどうでも良かった⋯⋯)
「皆さん、病院では静かにしてくださいね」
非常識極まりない連中がまりなについて語っているだけでも不快だ。
「もしかしてユーリ先輩ですか? 相変わらず本当にかっこいいですね。私、恵麻です。高校で1学年下だった田代恵麻。覚えてますか? 」
「俺の愛する岩田まりなの友達でしたっけ。その目の前の男をスッポンのように離さないでくださいね。俺は岩田まりなと結婚します」
俺はまずは、恵麻に釘を刺して、隣の男にも釘を刺した。
「それから、運良くまりなと付き合えたラッキーボーイ。4千万ドルの宝くじに当たったような幸運を手放したのは自分だから、そこを理解してくださいね。もう、絶対、岩田まりなに関わらないでください」
「侑李先輩ってば、まだ、まりなのことが好きなんですか? 美的感覚がおかしいんじゃないの? なんで、まりななんか! 私の方が可愛いのに」
恵麻の言葉を聞き、周りの人間が嘲笑している。
「おばさんなのに可愛いだって」
ギャルママの言葉に恵麻が激昂した。
「おばさんじゃないわよ! 」
「聞いてください。先生。うちの子はこの托卵女に騙されたんです。息子は岩田さんとは22年間もお付き合いして、婚約までしてたんですよ」
「すみません、侑李先輩。俺とまりなは婚約してるんです」
親も親なら子も子だ。
揃いも揃って、自分達にまだまりなを選ぶ権利があると思っている。
このような非常識な家に嫁に言ってまりなが利用されなくて良かった。
彼らはまりなの価値を全くわかっていない。
彼女は俺にとっては、人生で唯一見つけた愛しい女だ。
「誠一さんはまりなと婚約を破棄しているから、今、恵麻さんとご結婚なさっているですよね。ちなみに、婚約破棄の慰謝料はしっかりとまりなに払いましたか? 」
「いや、そんなことを言い出されたら、機械に巻き込まれて指ごとなくなった婚約指輪代をまりなに請求したいです」
誠一の身勝手な発言に、俺の中の何かが切れた。
きっと、この身勝手な男にまりなは散々傷つけられてきたはずだ。
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