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真実
その日の放課後、日直当番で居残りをしていた私は、帰宅の途に着くため、教室を出て廊下を歩く。
その時、別の教室から話し声が聞こえた。
「晃司、本当にいいのか?早苗ちゃんのこと、両想いだろ、もったいないよ」
晃司君とその友達だ。
私はその場で立ち止まり、耳を傾ける。
「確かに、彼女は綺麗な人だよ。もったいないと思う。だけど、話が噛み合わないんだよ。自己中心的と言うか、話すことが髪型とかコスメとか、自分の事ばかりなんだ。僕は話しを聞くだけ。後、ご飯の食べ方とか字の書き方とか、目に余るものがあるんだ」
相思相愛だと思っていた二人は、そうでなかった。
私は驚き、右手で口を押さえる。
「早苗ちゃんがダメなら、どんな子が好きなんだ」
「1ヶ月程前だったかな、夜におふくろから買い物頼まれて、スーパーへ向かう途中、道路で転倒してる人がいたんだ。荷物が散乱していて、その子のノートを拾ったんだけど、そこに書かれている字がすごく綺麗だったんだよ。だけどその子、ノートを手にして、お礼を言うと、そそくさと行ってしまったんだ」
「顔は見たのか?」
「帽子をかぶってたから見えなかったよ。それに後ろ姿でよく分からなかった。少し小柄だったかな」
「追いかけたら良かったのに」
「追いかけないよ。追いかけて、顔を見ると好きになりそうでこわかった。それに俺はもうすぐアメリカに行くし」
「それもそうだな」
「早苗ちゃんのこと頼むよ。ゴメンな」
「あぁ、分かった」
私は足音をたてずに、廊下を歩いた。
階段を降りて校舎を出た後、大きく息を吸って、ハァーっと言いながら息を吐く。
晃司君は、私に好意を寄せていた。
それだけではない。
晃司君は、人の外見以外のところを見て、それを言葉に発してくれた。
そのことに対しても、私は嬉しさを感じた。
嬉しいけど、晃司君。
あなたは人を見る目がないと思う。
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