あなたにいちばん会いたい夜に

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なにもうまくいかない日 せめてあなたに会いたくて あなたが本が好きってことだけを頼りに 図書室にいた 約束してないから必ず来るわけでもなくて それでもそわそわして歩き回って 本棚の本をみるふりをして かがんで体を丸めて息を潜める そうしたら向かいの本棚から 私の名前を呼んでくれないかな 本棚の隙間から いたずらっぽく目を細めて 懐かしむように 確かめるように 私の名前をよんでくれないかな ため息ひとつついて 今日は本を読むことにするよ 昨日も同じことしてたんだけどね 夜の図書室は静かだよ 静謐な空間に身を任せた ふと声をかけられた あなたではなかったけれど やさしいほほえみになぜか心が暖まる この図書室の司書さんだった 「ねえ、外みてみてよ。月が綺麗だよ。」 そうして一緒にカーテンをめくって 外を覗き込んだ おおきい、まあるい月 「今日、中秋の名月だね。」 だって そうか、忘れてたな 言われなかったらこの月をみなかったかも そして見惚れるうちに 思い浮かぶのはやっぱりあなた 一緒にこの月をみたかったな あなたみたいにやさしい司書さんに教えてもらった月 月が綺麗ですね って言ったら 夏目漱石ファンのあなたはどう返すかな 知らないふりをして あるいは確信をもって そうだね って返してくれる? どっちの意味で受けとればいい? きっとあなたも同じこと考えるよね その時間もたぶん楽しい それともそれはわたしだけかな 司書さんが窓を閉じて そこで今日の魔法がとけた もう下校時刻2分前 粘るか迷ったけど 結局帰ることにした 本を借りて そうしたらまたここにきてもいいでしょ? もちろんそうじゃなくても来ていいはずだけど なにか図書室にくる口実がないと あなたと会ったときに焦っちゃいそうで それにあなたの好きな本 わたしも知りたいの 本を片手だけれどもしっかり抱えて それでもまだ憂鬱は残っていて 情けない猫背でそっと図書室を出た 髪が短いけど後ろ髪を引かれるような感覚だった 結局ぼくに会えるかより、先生に怒られるのがいやで帰っちゃうの? なんて脳内で勝手に私の妄想したイマジナリーのあなたが浮かぶ そんなこと言うあなたではないのにね でも私はそんな意地悪言わないでって脳内で返しながら階段を降りる 生徒なんかほとんどいない こっそり でも階段の音は響く たんたんたんっ かんかんかんっ あなたがいたら隣で笑ってるかも あなたが私を見つけたら にっかり笑って なにやってるんだよ~なんて言ってくれるかも なんて 秘密と大胆の狭間で笑う ああ 明日こそ あなたに会えるだろうか
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