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(それ、に、しても)
今のシャノンの身体は清められているようだった。衣服も新しいものに変わっている。……男物で多少なりともぶかぶかなのは、仕方がないだろうが。
(……フェリクス殿下)
シャノンはフェリクスが亡くなったと知って以来、恋にうつつを抜かすことはなかった。
彼と結ばれることが出来ないのならば、一生独身で構わない。そう思うほどだった。
(なのに、私は易々と純潔を奪われてしまった……)
それも、敵に。フェリクスにそっくりな男性によって。……シャノンのプライドが、崩れて行くような感覚だった。
「……うぅ」
なんとなく、泣きたい。
その一心で、シャノンは涙を零した。ニールがいない今ならば、泣いても大丈夫だろう。
「……やだ、やだよ」
殺される、もしくは拷問されることに関しては覚悟はできている。しかし――慰み者にされることだけは嫌だった。
シャノンの心は未だにフェリクスにある。彼以外に身体を許すことなんて、考えもしなかった。
「フェリクス殿下……」
静かに彼の名前を呼ぶ。そうすれば、不意に部屋の扉が開く。どうやら、ニールが戻ってきたらしい。
彼は水の入ったコップを持っているらしく、そのままシャノンの側に寄ってくる。
「ほら、喉渇いただろ? 飲め」
乱暴にそう声をかけられ、コップがシャノンに差し出される。
確かに散々喘いだこともあり、喉はカラカラである。けれど……。
「……飲みたく、ない」
ボソッとそう言葉を零してしまった。
もしかしたら、水や食事を拒んでいれば衰弱して死ねるかもしれない。
そうすれば、誰にも迷惑をかけずに――。
シャノンはそう考えたのに、ニールに半ば無理やり上を向かされた。彼と無理やり視線を合わせられると、気が付く。
――彼は、怒っている。
「いいか? お前が死んでも現状誰も得しないんだよ。……衰弱死するつもりなら、あきらめろ」
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