300人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
シャノンがフェリクスと出逢ったのは、今から十年ほど前のことだ。当時のシャノンは伯爵令嬢であり、王族であるフェリクスとは社交の場で出逢った。
彼はきれいなさらりとしたエメラルド色の髪と、高貴な紫色の目を持つ美しき青年。王国内外問わず優秀な王子と有名だったフェリクスは、女性から大層モテた。
シャノンも彼を遠目から見ることは多かったが、特に彼に熱を上げることはなかった。
恋心を抱いたのは――それから数年経った頃。
その頃、シャノンは母を失った。父ジョナスはシャノンに「お前の母は殺されたんだ」と何度も何度も告げてきた。そして、ジョナスはその原因を『王家』だと突き止めた。
シャノンは王家を嫌った。当時の国王も、王太子も、もちろん――フェリクスも。
民たちを苦しめるだけの悪魔だと思った。
その日、シャノンは王城に向かった。ジョナスが王城に抗議に行ったのを連れ戻そうとしたのだ。
ジョナスは一人娘であるシャノンにはめっぽう甘く、シャノンのお願いは何でも叶えてくれた。そのため、執事に頼まれ数名の侍従を連れて王城にやってきたのだ。
けれど、王城を見ると心の中にもやもやとしたものが湧き上がってきてしまった。
(お母様は……)
この城に住む人間に、殺されたのか。そう思うとジョナスの気持ちもわかってしまって、シャノンは唇をかみしめることしか出来なかった。
(お母様、どうして、私たちを置いていってしまったの?)
王城にそう問いかけたところで、答えなんて帰ってこない。それは理解していた。でも、無意識のうちにポロリと涙が零れていく。
「……お母様っ」
ボソッとそう言葉を零すシャノンを、侍従たちは必死になだめた。やはり、ここに連れてくるべきではなかったと言い争いを始めるほどだ。
最初のコメントを投稿しよう!