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「食欲がなかろうが、しっかりと食え。……お前みたいな貧相な女は、好きじゃない」
「なっ」
誰もニールの好みなんて聞いていない。
心の中でそう思いつつシャノンが彼を睨みつければ、彼はなんてことない風にパンを千切り――シャノンの開いた口に押し込む。
「んぐ」
いきなりの行動に驚くものの、吐き出す勇気はなかった。そもそも、今のこの国の民たちは、食べるものにさえ困っているのだ。食べ物を粗末に扱うことなど、許されることではない。
ゆっくりと咀嚼し、シャノンはパンを呑み込む。パンの味は美味しかったが、どうにも味が薄いように感じられた。
「……食う気になったか?」
ニールが挑発的に笑いながら、シャノンにそう問いかけてくる。
確かに、パンを少し食べたからなのか、身体が空腹を主張し始めていた。……本当は、食べたかった。
「……あなたたちは、こんなにも贅沢な食事を摂っているのね」
けれど、それを誤魔化すかのようにシャノンはそんな言葉を口にする。
ニールが、微かに眉を上げたのがわかった。
「民たちは食べ物に困っているのに、あなたたちはこんなにも贅沢なものを食べているのね」
「……何が言いたい」
「いいえ、何でもないわ。気に入らないのなら、殺して頂戴」
目を瞑ってそう伝える。ニールは、何も言ってくれなかった。
「……別に、お前の言っていることは正しいからな。反論する気はない」
それからしばらくして、ニールが端的にそう告げてくる。
「民たちが食べ物に困っていることは、俺の耳にも入っているからな」
「……じゃあ、どうして、なにも……」
そんな質問、無駄なのに。彼らは、王国軍の人間たちにとって、民たちとはどうでもいい存在なのだから。
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