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そして、その日の午後。シャノンはニールの言ったとおりに彼が所有する屋敷に移動させられることとなった。
「絶対逃げ出すなよ」
移動する前。ニールがシャノンの耳元でそう囁く。
シャノンとて、チャンスがあれば逃げ出したいと思う。が、ひ弱な女一人が協力もなく逃げ出したところで、すぐに捕まるのは目に見えていた。
だからこそ、今のシャノンに逃げ出すつもりはない。それに、朝にニールが告げた言葉が引っかかるのだ。
「わかっているわ」
ニールにツンと澄ました態度を取れば、彼はくつくつと声を上げて笑っていた。その笑みがどうしようもなく心を乱す。
(この人、完全な悪人っていうわけじゃなさそうね……)
彼の笑みは、とても美しいものだった。その所為なのか、シャノンの心の中にそんな感情が芽生えてしまう。
しかし、彼はシャノンたち革命軍にとって、敵なのだ。王国軍の一員である以上、革命軍とはなれ合うことがない存在。
そう思いなおし、シャノンはぐっと唇を噛む。
(移動させられるということは、扱いがひどくなってもおかしくはないということよね……)
先ほどまでの部屋ならば、まだ周囲の目があった。そのため、ニールもまだシャノンを丁寧に扱ったのかもしれない。
だが、彼の所有する屋敷ということは、他者の目は期待できない。……まぁ、そもそも革命軍であるシャノンを丁寧に扱うというほうが、おかしいのだが。
そんなことを思っていれば、シャノンとニールの周りを王国軍の兵士たちが取り囲む。
どうやら、彼らはシャノンの輸送の際のいわば警護兵らしかった。
「……行くぞ」
ニールがシャノンの細い腰に手を回し、そう言葉をかけてくる。
シャノンを捕らえる拘束は、現在手枷だけだ。歩くために足枷は外されているし、何故か目隠しもされていない。
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