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「……革命軍のリーダーの娘だな」
誰かが、シャノンのことを呼んだ。それに驚いてそちらに視線を向ければ、そこには真っ黒なフードで顔を隠した一人の人間が立っていた。声。それから高い背丈からして男性だとわかるものの、顔は見えない。
その男性は腕に子供を抱いている。抱いていると言っても、優しい抱き方ではない。荷物でも運ぶかのような、乱暴な抱き方だ。
「この子供の命が惜しければ、革命をやめさせろ」
男性は手に持っていた短剣を、子供の首筋に押し付ける。子供が声を上げて泣くのが、シャノンとキースの耳に届いた。
「……卑怯だね」
キースがそう声を上げる。
男性の手はしっかりとしており、シャノンが拒否すれば容赦なく子供を殺すのだろう。……それが、痛いほどシャノンにはわかった。
(……どうしよう)
戦場では一瞬の判断が命取りだ。それがわかっているのでシャノンは周囲を注意深く見渡しながら、考える。
今はとにかく、子供の命が優先だ。しかし、革命を止めさせるつもりはシャノンには毛頭ない。
(でも、そうだとすれば子供の命が危ないわ……)
必死に頭の中で策を練るものの、いいものは思い浮かばない。
下唇を噛み、シャノンは悔しそうに男性を見つめる。……かすかに見える彼の口元は、笑っていた。
「下衆ね。……そんなことで、私がお父様に掛け合うとでも?」
肩をすくめながら、シャノンが凛とした声でそう告げる。そうすれば、男性は子供に首に剣の切っ先を当てる。……かすかに血がにじんでいるように見えるのは、気のせいではないだろう。
「……お前が拒むのならば、答えは一つだ」
その声には戸惑いもためらいもない。……全く、面倒な輩もいたものだ。
心の中でそう思いつつ、シャノンはキースに視線を送る。彼の目の奥は、震えていた。
(そりゃそうよね。キースは優しいもの)
彼はいつだって人の血が流れるのを嫌がった。それを思い出し、シャノンは自らが持っていた剣を捨てる。
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