第1章

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「シャノン!」  隣からキースの悲痛な声が聞こえてきた。シャノンはキースに視線だけを向けて、口パクで「大丈夫」と伝える。 「じゃあ、妥協案で行きましょう。私がその子の代わりに捕まるわ。……その後は、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」 「……ほう」  両手を挙げたシャノンを、周囲の兵士たちが手際よく捕えていく。もしかしたら、初めからこれが狙いだったのかも――と思うが、拒む術も理由もない。  男性はシャノンの意見を聞いたためか、子供を解放した。子供は即座に駆けていき、近くにいた母親であろう女性に飛びついていく。 (……これで、よかったのよね)  心の中でそう思いつつ、手枷をつけられる。そんなシャノンの様子を、キースは悲痛な面持ちで見つめていた。  彼がこの場で手を出さないのは、シャノンが「大丈夫」だと言ったからだろう。なんだかんだ言いつつも、彼はシャノンの気持ちを汲み取ってくれる。 「運べ」  男性の声に合わせて、シャノンが兵士の一人に乱暴に抱えられる。シャノンは抵抗することはしなかった。  ただ、ちらりとキースを最後に見つめる。彼は、今にも切りかかりそうな怒りの形相で王国軍たちを見つめていた。 (キース。どうか、お父様方には上手いことお伝えしてね)  シャノンは、心の中だけでキースにそうお願いをした。
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