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ある日、起きたら突然彼岸花になっていた。
おかしい、なぜ、彼岸花になっているのかまったくわからない。
赤い花弁は触ると毒があるから、きれいだ、と見つめられるだけ。
触れられないことが、こんなにさみしいなんて。
すぐ手を伸ばせば口づけができるのに、どうして。
小雨がポツポツっ、と降ってきた。
そんな中、なつかしいあのひとが傘を差してくれた。
ああ、優しいところはお変わりなくてよかった。
そう云いたくても云えない。
伝えることすらも、もう叶わない。
『きれいだね、あの娘によく似ている』
──あのひとは、恍惚した目でながめて、それから赤い花弁を唇でカプっ、と噛んだ。
なにを、しているの。
あなたのきれいな唇が、ほら、毒が、まわるから、やめて、おねがい、ねえ。
それでも、あのひとは、やめることなくきれいな桜色の唇が青紫色に変貌しても顔が真っ青になりながらも赤い花弁を噛み締めることをやめることなく。
ついに、すべて飲み干してあのひとは、倒れてしまいました。
いま、わたしは、あのひとの中で溶けてしまいました。
最期にあのひとが、『ずっと…一緒にいよ…う…ね…』と途切れゆく意識の狭間で云ってくれたこと、ずっと忘れません。
──だって、想うはあなた只ひとりだけですから。
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