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一麒の寝室は赤褐色の天蓋付きのベットだった。ベットの柱には細かな透かし彫りが細工されており麒麟の姿が彫られていた。
「まず、誓って嫌がる事はしない。だから抱きしめてもいいだろうか?」
さっきも抱きしめたじゃないかと僕は心の中でつっこみをいれた。
「いいよ。その、一麒は僕が番だと思うの?」
「リンは私の麟だよ。もちろん最初から確信が持てたわけではない。でも君のその穏やかな性格に可愛い笑顔は会った時から惹かれていた。何より君が力を発現させたときに僕の中の力が共鳴したんだよ」
「僕が力を? それはどういう?」
「中庭の植物を再生させただろう?」
「あっ! あれは偶然の……」
「ふふふ。偶然はありえないよね。あのとき、君ははっきりとした意思表示をし、それに君の中の力があふれ出したんだよ」
「僕の中のチカラ?」
「あのとき清々しくも凛とした空気に辺り一帯が振動しただろ? あれはまさしく君のチカラだよ。それから君は中庭に出ることが多くなった。何かを感じ始めたからではないの?」
そのとおりだった。中庭に出ると断片的だが感じることが増えてきた。この庭が好きだったとか、一麒とお茶を飲むのが好きだったとか、甘いものが好物だったような気がして来る。それは番の御霊の記憶なのか? それともなんとなくそんな気がするだけなのだろうか?
「本当に僕が番だったなら、どうしたら覚醒すると思う?」
「リン、そればっかりは私にもわからない。だから私はもういちど君と恋をしたいんだ」
「一麒は番だから恋をしたいのであって、僕だからじゃないんだね?」
「それは違う。私はリンがいいんだ。リンは可愛くって堅実で、ここに連れてこられた理不尽さにも怒らないばかりか、私を助けようとする暖かい慈悲の心の持ち主で……そう、それはまさしく【仁】そのものなんだ。例えようもなく君に惹かれる。本当は君が欲しくてたまらない」
一麒の真剣なまなざしに心臓が踊りだす。ただでさえイケメンなのにこんな口説き文句をベットの上で言われて戸惑っていると、力強い腕に抱き込まれた。
「一麒……」
「嫌がらないで。こうしてるだけで安心するんだ」
かすかに震える肩越しに一麒がこの場所を一人で護ってきたんだと思うと切なくなった。
「口づけてもいいか?」
「うん」
そっと触れるだけの口づけに胸が熱くなった。真摯な瞳が僕を見つめている。まるで逃げないでくれと言っているようで。僕は思い切って自分から口づけてみた。一麒が嬉しそうに目を細めた。一麒が振れるところから暖かい感情が溢れてくる。お前の帰る場所はココだよと身体の中から聞こえてくる。ああ、僕はやっぱり一麒が好きみたいだ。
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