48人が本棚に入れています
本棚に追加
襲撃
突然、聖廟殿に大きな揺れが起こり、衝撃音が鳴り響いた。
「結界の一部が破られたっ」
一麒が飛び起きる。同時に僕の脳裏に映像が浮かんだ。
「中庭だ! 僕のっ僕の庭が荒らされてる!」
「リン? わかるのだな? よし! 行くぞ」
一麒が僕を抱えるとその姿を変えた。金色の光に包まれると僕は麒麟の背中に乗っていた。僕は『いつものように』首の後ろのおくれ毛を掴むと詠唱を唱える準備を始めた。
麒麟は蹄を鳴らすと中庭までひとっ飛びに移動する。昼間せっかく手入れした庭は見るも無残な荒地と化していた。どろどろとした黒い塊が湧いている。
「また来たのかっ。もう同じ手には乗らぬよ」
次々と浄化の詠唱が僕の口から詩のように流れだす。シミを落とすように僕は黒い塊を清浄していた。闇をつんざく悲鳴のような声に振り向くと白虎が舞う様に何かと戦っていた。
「白虎! 駆けつけてくれたのか?」
「この場所で玄武以外に夜に近づけるのは俺だけだからなっ」
白い軍服が風に乗り宙を舞う。闘神の白虎を見るのは久しぶりだ。
黒い闇が幾重にも白虎に襲い掛かる。麒麟が蹄を鳴らし金粉が辺りを照らすと闇が粉砕する。次に僕が詠唱を唱えると黒い闇はうめき声をあげた。
「ぐるぅるる……」
「玄武……? そんなっ」
そこにいたのは玄武だった。上半身だけが人型を保っているが下半身は闇に溶けかかっていた。
「……一麒様……お、お逃げください」
かろうじて意識を保っているような玄武の声は震えていた。麒麟の姿を解き一麒が現れる。
「玄武、私が逃げると思うてか!」
「そうだ玄武っ、僕らがお前を捨てるはずなかろうに!」
「り……麟様? そんなはずはない。リンお前はただの人間だっ」
「え? あれ? 僕……何をして」
玄武の叫びにふと我に返った。どうして僕はこんな力が使えたり仲間を助けたいと思ったんだろうか?
「リンっ! 危ないっ」
僕が戸惑った一瞬の隙をついて闇が広がる。一麒が僕を庇って闇に引きずり込まれてしまった。
「一麒っ……いっいやだあああ」
いやだ。もう一麒と離れるのは。あの時と同じように僕らはまた離されてしまうのか?
あの時……邪悪な力がこの世界を壊そうとし一麒を襲おうとした。僕は彼の代わりにこの身を犠牲にしたのだ。僕にとって一麒は……。
「そうだ。愛すべきただ一人の番!」
一麒っ。僕は闇の中に突っ込んだ。闇はにやりと笑ったような気がした。
「ふんっ! 僕と僕の番を甘く見るなよ!」
闇は煙のように漂い形をなさずリンを覆い始める。くそ。どうすれば……。
最初のコメントを投稿しよう!