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覚醒
――――『君の心のままに動けばいいんだよ』
そうだ、一麒が最初に言ってくれたじゃないか。僕の心のままに。そう、それってつまり……。煙は掴めないなんて僕には通用しない。これは邪悪なものが作ったものだ。ならば浄化が出来る僕には掴めるはず。いや、掴めるのだ。僕は強く念じて口に出した。
「闇はつかめる。浄化することが出来るのだ!」
リンは目の前の闇を掴み千切っては投げる。投げた闇の欠片は白虎が薙ぎ払う。
思い出した! 僕のチカラは強く願う事で発動するんだ。
「一麒っ。僕は君を助ける! 僕らは二人で一つだ! 今度は僕を一人にする気かい? 僕の声が聞こえてるなら僕を今すぐ抱きしめてっ!」
闇の中に強い光が放たれ、やがて光は大きくなり真っ白な空間が現れた。
目の前に一麒がほほ笑んで立っている。広げられたその腕の中に僕は飛び込んだ。
「リン? 力の使い方を思い出した? 麟、僕の番。おかえり」
「……ただいま。ここは?」
「精神世界とでも言う場所かな? 此度の事は私のせいだ。力が弱まったところを狙われていたんだろう。そこにリンが歩み寄りを見せたので邪神どもが焦って手を出したんだろうよ」
「そうだ、玄武はどうなるの?」
「玄武は黒の霊獣だ。夜を司る。闇の力が浸透しやすかったのかもしれない。しばらくは眠りについてもらうとする。白虎
にも取りついていたのかもしれないが白は聖なる色でもあるからね。思う様に動かせなかったのだろう」
話しながらも一麒の身体が震えている。
「チカラが足りないんだね」
「ああ……」
「いいよ。もう覚悟はできてるから」
「くそっ。本当はもっと浪漫チックに余裕めいてしたかったのに」
「ふふふ。いいんだよ。僕は思い出したんだ。一麒といて幸せだって事に。僕は異世界に召喚されたんじゃなくてこの世界に還ってきたんだよ。孤児じゃなかった。邪神に見つからない様に記憶を封じてたんだ」
「麟。ぁあ本当によく戻った」
僕は一麒の首に腕を回して口づけをねだった。戸惑う様に軽く唇を重ねたのは最初だけ。互いに離れていた分を埋めるように貪るような口づけを交わす。濡れた音に興奮した体中が熱くなっていく。
「もっと……一麒……」
「優しく抱きたいっ。煽らないでくれ」
言葉とは裏腹に一麒の瞳孔が獣のように縦に見開かれた。
「……んんっ……」
「会いたかった、抱きたかった……愛してる」
一麒の口づけが甘く頭の芯がぽうっとなる。
「かず……き」
「全部を愛でたい。まだまだ足りないんだ」
しっかりとその腕に抱かれ歓喜で震えた。暖かい。どうしてこの暖かさを忘れていたんだろうか? これは僕の片割れだ。僕の鼓動。僕の呼吸。すべてを分け与え存在する。唯一無二の僕の番だ。
「一麒っ。好きだ。かずきが」
「リンっ可愛い。もう離さないっどこにもやらないっ私のものだ」
「うん。うん。……もう離れない」
「どこまでも一緒だ」
「寂しい思いをさせてごめん」
「いいのだ。こうして戻ってきてくれたのだから」
「きっと僕らは離れ離れになってもこうして時空をめぐり何度でも惹かれあうんだ」
溶けあう様にチカラが混ざり合う。欠けていた片割れを繋ぎ合わすように僕らは愛し合った。
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