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霊獣
どのくらい気を失っていたのだろうか。目を開けると一麒の優しい瞳が細くなる。
僕を抱えながら一麒は皆に指示をだしている。目が醒めるような青い官服が揺れているので青龍が来ているのだろう。となればもう朝が来たのだ。昨夜の事はどうなったのかと身体を起こすと周りの景色が目に入る。
そこは中庭だった。芝生の上に一麒は座り僕を抱きかかえていたようだ。
庭には緑が覆い茂っていた。色鮮やかな花々が咲き乱れている。
池の中には金と銀の魚が泳いでいる。白い水連が咲き誇り、桃色の花びらが風に乗って舞っていた。なんて幻想的な風景なのだろう。桃源郷のようだ。
「あぁ、そうだ。この景色を僕はいつも見ていたんだ」
ふいに記憶がよみがえる。此処は僕のお気に入りの場所だったのだ。だから無意識に入り浸っていたのだろう。確かめるように一麒を見つめると優しくほほ笑んでくれた。
暖かい風がふわりと吹くと赤い官服が現れた。
「朱雀? その手にあるのはなあに?」
「これは、玄武ですよ」
「え? 玄武なの?」
朱雀の手には布にくるまれた小さな霊獣がいた。ふるふる身体を震わせてあくびをしている。
「ふふ。可愛いなあ」
あのあと、チカラを取り戻した一麒が闇を一掃し、玄武から邪悪を分離させたらしい。
結界のほころびは青龍が直し、玄武の再生は朱雀が請け負ったようだ。
「僕が玄武を育てるよ」
「そういうと思ってたよ……思っておりました」
いつの間にか白虎が傍に立っていた。まだ夕方じゃないのに?
「今まで通りに話しかけてよ。白虎に丁寧に話されると気持ち悪いよ」
「なんだよそりゃ。わかったよ。無礼講で頼む」
麒麟が再生し四神達のチカラも戻ってきたようで、しばらくの間は時間規制なしで皆で交代に持ち場を護ることになったらしい。
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