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イケメンとご対面
「おはよう。リン。目が覚めたかい?」
朝焼けの中、目覚めると穏やかな笑顔のイケメンが目の前にいた。彼は一麒と名乗った。黄色に金糸が混ざった紗の着物を着ていて腰まで伸びた灰色の髪に額に角がひとつ生えていた。
「なんだ、まだ夢の中なのか。じゃあもう少し二度寝でもしよう」
「ふふふふ。君はおかしな子だねえ」
その声が心地よくてウトウトすると、ドドンッと落雷の音がした。
東の空から青い光がジグザグに走り落ちたかと思うと目の前に顎髭が生えたイケおじが立っていた。年齢にすれば四十から五十歳くらいだろうか。眼が冴えるような青い官服を身にまとっている。
「リン様! ご機嫌麗しゅう。お目覚めになられましたか?」
「……どうして皆、僕の名前を知ってるの? やっぱり夢の中だからかな」
「一麒様。リン様はまだ渡り酔いから醒めていらっしゃらないのでしょうかのぉ?」
イケおじは顎髭を撫でながら首をかしげる。
「そうみたいだね」
「今日はなんて現実味のある夢なんだろう」
ぼんやりとした頭でぼ〜っとしているとイケおじが近づいてきた。
「しっかりなさいませ。夢ではありませぬぞ。ここは聖廟殿。この世界の中心となる場所ですぞぃ。」
聖廟殿って? 聞きなれない言葉にぐるりと辺りを見渡すと、周りを囲んでいる赤い欄干には丸い赤い提灯がいくつもぶら下がり揺れている。自分が来ている服装も一重の上等そうな薄絹で出来ていた。やたらと中華っぽい壁画や家具に目がいく。なんだか夢じゃなさそうだ。そういえば僕、トラックに轢かれたはずだった!
何故か中華風の世界に居るってことはまさか異世界転生とかってやつ? そんな定番の転生あるあるみたいな話本当にあるんだ? 待てよ。そうなると大抵の場合は二度と戻れないとかって設定じゃないのか?
「これが現実なら、まさかもう元の世界には……」
「残念ながらこちらに渡ってこられたという事はもうあちらの世界での形は亡くなっているのではと……」
イケおじが申し訳なさそうに話す。形が亡くなるって? どういうこと? それって僕はもう元の世界じゃ……。ぐるぐる頭の中が混乱する。
「冗談じゃないっ!」
叫んだ拍子にふらついた身体を誰かに抱きとめられた。
「突然の事だったから混乱してるんだね? リン。大丈夫かい?」
一麒に抱き寄せられ、背中を撫でられた。低く優しい胸に沁み込むような声に思わず涙が溢れる。僕は孤児院育ちだ。捨て子だったらしい。その後、里親になってくれた優しい老夫婦の元で成長した。二人が亡くなった後、大学へは奨学金で通っていた。日々バイトに明け暮れて心の癒しは白猫との戯れる時間だけだなんて寂しい生涯だったなあ。
一麒は黙って僕の背中を撫でてくれている。悲観していても何も始まらない。まずはこの世界の事を知ってみよう。それに一麒の傍にいると不思議と穏やかな気持ちになってくる。以前から知っていたようなそんな感覚がするのだ。
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