1-3 雨宿りはいらない

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「あ、これなら知っとるよ」  彼が指さしたのは、見開きに七つの星が並ぶ写真だった。北斗七星。 「ひしゃくか……言われてみれば見えるような、見えんような」  七つの星を線で結ぶと、ひしゃくの形に見える。説明にはそう書いてある。 「くまの身体の一部でもあるんだよ」 「くま?」 「大ぐま座って聞いたことある?」  私の質問に、なんとなく、と彼は答えた。 「大ぐま、子ぐまやろ」 「うん。大ぐま座は、百個以上の星で出来てる星座で、その腰から尻尾がこの北斗七星なの」 「そんなでかい星座やったんか」 「でも大きい順だと、確か三番目だったと思う。一番はうみへび座」  ふーんと声を漏らして、旭は指先で北斗七星をなぞった。くまの尻尾を想像しているみたい。  私は、ひしゃくの先を作る二つの星を指でつつく。 「それで、この二つの星……メラクとドゥーベを繋いだ長さの五倍先にポラリス、つまり北極星があるの。その北極星が、こぐま座の尻尾」 「へえー」びっくりした声。「そこで繋がるんか」 「素敵でしょ」 「よう知っとるな。……それで鞄にも月と星つけとるんか」  彼はテーブルにある私の鞄に目をやった。チャックに結びついているのは、透き通った黄色の星と、布で出来た青色の月が縦に並んだキーホルダー。 「これは、私の宝物。手作りしてもらったの」  中三の時にもらって、高校に入学しても肌身離さずにいる宝物。私の宇宙好きを理解してくれる人が、わざわざ作ってくれたお守り。 「ほんまに好きなんやなあ。やっぱ宇宙に行ってみたかったりするんか」 「そういうのはないけど……天体観測とかしてみたいかな」  天文部を辞めた話は、既に旭には聞かせていた。そら残念やな、彼はそう言っていた。
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