1-3 雨宿りはいらない

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「これとか、すごいでしょ」  ページをめくって、何度も眺めた写真を彼にも見せた。夜空に幾筋もの線が円を描いている光景。眩い光が空を駆けているようにも見える。自然が作り出す景色の中でも、抜群に美しいものだと私は思っている。  写真の下には、「ふたご座流星群」の文字。 「でもこれって、あれやろ、タイムラプスとかいうやつやろ。ほんまに見たら一瞬や」 「その一瞬を見たいの、私は」 「どっかで見れへんのか」 「見られることには、見れるんだけど……」テーブルに置いていたスマホを手に取って、お気に入りに入っているホームページを開く。ほら、と彼に画面を向けた。  琴野(ことの)島。人口約八百人の小さな島。私たちの住む楠市は海が近くて、その海にはいくつかの島がある。その中の一つが、「星の降る島」のキャッチコピーを掲げている琴野島だ。 「ここね、星空がよく見えるって、天体観測に行く人の間で有名なんだ。ふたご座流星群も、実は穴場なんだって」 「行ったらええやん」 「簡単に言わないでよ」  船に乗って宿に泊まって、天体観測。確かに憧れるけど、女子高生一人で行く勇気が出ない。天文部で仲間ができれば……なんて淡い期待もしてたけど、それは先月、呆気なく砕け散った。 「ほんまに見たいなら、行けるやろ」  彼の言葉に、少しむっとして私は言い返した。 「それなら、旭も来てよ」 「ええよ」  何でもない顔で言うから、私は驚いてしまった。「……本気?」そんな言葉が口から出る。 「俺も多少は興味あるし。七瀬が金出してくれるなら、行ったるよ」 「そういうこと?」  男が金を出すべき、なんて時代錯誤なことは言わないけど、せめて割り勘だろう。本気か嘘か分からない台詞に、私は多少なりとも呆れてしまった。
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