1-5 雨宿りはいらない

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 道を曲がると水に濡れるアスファルトの先に、青い傘をさした見覚えのある後ろ姿が目に入った。足早に向かうと、彼もこっちを振り向いた。 「どうやったの?」  私は唐突な質問を旭に投げかけた。まるで彼を中心に雨が降っているような気がした。 「なんで、ここで雨が降るってわかったの」 「わかったわけやない。俺が降らせたんや」 「降らせたって……」あり得ない、って言葉が続かなかった。ネットでもテレビでも、今日の市内の天気予報は晴れだった。その予報を覆す雨の時刻や場所を特定することなんて、できるはずがない。  けど、昨晩彼の言った通りに雨が降っているのは、紛れもない事実。 「先生に言われてな。思い通りに降らせる訓練や。いつか止ませることも出来るかもしれん」  野良猫と会話をして、自由に雨を降らせる男の子。彼の能力に対する疑念は、私の中でいつの間にか払拭されていた。 「不思議な力だね」  そう言うと、彼は苦笑した。 「不気味やろ」 「そんなことないよ。傘をささないのはどうかと思うけど。……でも、雨は私、嫌いじゃないよ」  旭が目を丸くする。  私だって、雨に濡れたり帰りのバスが混んだりするのは嫌だけど、雨が降るのは嫌じゃない。夜に雨音を聞きながら眠るのは、心が落ち着いて大好きだ。 「……ほうか」私の言い分を聞くと、彼は安堵に似た表情を浮かべた。傘を傾けて、灰色の空を見上げる。 「雨はええよな。全部隠してくれる」 「全部って、何を……」 「なんでもない。気にせんでくれ」  意味深な台詞を口にした旭の横で、少しの間、一緒に雨雲を見つめた。五月の終わりの雨が傘を叩く音を、ただ黙って聞いていた。
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