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道を曲がると水に濡れるアスファルトの先に、青い傘をさした見覚えのある後ろ姿が目に入った。足早に向かうと、彼もこっちを振り向いた。
「どうやったの?」
私は唐突な質問を旭に投げかけた。まるで彼を中心に雨が降っているような気がした。
「なんで、ここで雨が降るってわかったの」
「わかったわけやない。俺が降らせたんや」
「降らせたって……」あり得ない、って言葉が続かなかった。ネットでもテレビでも、今日の市内の天気予報は晴れだった。その予報を覆す雨の時刻や場所を特定することなんて、できるはずがない。
けど、昨晩彼の言った通りに雨が降っているのは、紛れもない事実。
「先生に言われてな。思い通りに降らせる訓練や。いつか止ませることも出来るかもしれん」
野良猫と会話をして、自由に雨を降らせる男の子。彼の能力に対する疑念は、私の中でいつの間にか払拭されていた。
「不思議な力だね」
そう言うと、彼は苦笑した。
「不気味やろ」
「そんなことないよ。傘をささないのはどうかと思うけど。……でも、雨は私、嫌いじゃないよ」
旭が目を丸くする。
私だって、雨に濡れたり帰りのバスが混んだりするのは嫌だけど、雨が降るのは嫌じゃない。夜に雨音を聞きながら眠るのは、心が落ち着いて大好きだ。
「……ほうか」私の言い分を聞くと、彼は安堵に似た表情を浮かべた。傘を傾けて、灰色の空を見上げる。
「雨はええよな。全部隠してくれる」
「全部って、何を……」
「なんでもない。気にせんでくれ」
意味深な台詞を口にした旭の横で、少しの間、一緒に雨雲を見つめた。五月の終わりの雨が傘を叩く音を、ただ黙って聞いていた。
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