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1-6 雨宿りはいらない
梅雨を迎えて、天気は連日ぐずついている。よく雨が降って、空気はじめじめ。今日も午前中に雨が降っていたけど、午後になってやっと晴れ間が見えてきた。最後の授業が終わって結々と話し込んでいる内に、放課後の教室は随分と賑やかになっていた。
「今日、カラオケ行く人ー!」
女の子の声に続いて、教室の中央で何人かが手を上げる。私とは距離のある、一軍の人たち。恋や部活に精を出して、青春を謳歌している高校生代表みたいな人たち。部活に入らず図書館にこもって本を読んでいる宇宙オタクは、それを端から眺めるだけだ。
「小夏、キラキラだね」
窓際で立ち話をしていた結々も、彼らを見ながら私に耳打ちした。
男女の輪の中心にいるのは、中学時代に結々と同じ塾に通っていたという、一葉小夏ちゃん。背が低く小柄で、肩につく髪を軽く巻いている。小さな顔に薄くメイクを施していて、リップや日焼け止めクリームを使うのがせいぜいな私とは雲泥の差だと思う。彼女は隣のクラスの生徒であるにも関わらず、堂々と教室の中心にいる。
「大地はどうする?」
彼女は、輪の一つを形成している大地くんに声をかけた。手を上げなかった彼は、笑顔のまま、うーんと首を傾げる。
「今日はいいかな」
「えー、行かないの?」
小夏ちゃんは不満顔で、頬をぷっくり膨らませた。このぶりっこな仕草は、彼女にはすごく似合っていて、不思議とあまり嫌味を感じさせない。もちろん私の個人的な感想だけど、少々敵を作っても痛くも痒くもない地位にいることを自他ともに認めている証拠だ。他クラスだけでなく他校にまで顔の広い彼女は実質無敵で、それも実際に可愛らしいから受け入れられている。多分、私が真似すればあっという間にイタいやつ認定されて、陰で笑われまくるに決まってる。想像すると背中がぞくぞくする。
「はー。いいなあ、あたしもあんな気軽に話せたらなあ」
隣で、結々が大きなため息をついた。小夏ちゃんが大地くんとたわい無いお喋りをしているのが羨ましいみたい。
「結々は意識し過ぎなんじゃないの」
「だって気になるんだからしょうがないじゃん。あーあ、どっかで経験値積まないとなあ」
陰ながら自分の青春に悩む結々が可愛くて、私はつい頭を撫でてあげたくなる。
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