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「恋愛もいいけど、そろそろ部活行かなくていいの」
「それもそう……あっ」
結々の声に、教室の後ろの出入り口にいる女の子に気が付いた。結々と同じ美術部の、私とは顔見知りの女子生徒がこっちに手招きしている。一緒に部活に行こうって誘いに来たんだ。
「じゃ、お先」慌てて、結々は自分の席から鞄を持ってくる。「また明日!」
「うん、またねー」
手を振り合って、私も帰ろうとそばの机に置いていた鞄に触れかけた。
「あずさ!」
そう名前を呼ばれて振り向いた。十秒前に別れたばかりの結々だった。
「なに……?」急いで駆け寄る。
結々の部活友だちが呼んでいたのは、私の方だったらしい。あまり話したことのない彼女は、何故か目を輝かせている。
「梓ちゃん、校門で待ってるって」
「待ってるって、誰が」
「さあ、よく知らないけど、男の子。さっき先輩とコンビニに買い物行ったんだけど、正門で話しかけてきて。一年の七瀬梓知ってたら、呼んでほしいって」
興奮気味の彼女は更に付け加える。
「名前聞き忘れたんだけど、うちの学校の制服じゃなかったよ!」
「ちょっと、もう少し声小さく……」
「えーっ! だれ! ねえ梓、それだれ?」
こういう話が大好きな結々も軽々と乗っかった。体温が急上昇して、一気に顔が火照るのが分かる。
旭だ。すぐに分かった。だって、他の学校の、それも男子の知り合いなんて、旭しかいない。でもどうして……。
そこではっとした。二人が騒ぐから、周りのクラスメイトも何ごとかって顔をしてこっちを見ている。私は慌てて両手で頬を抑えたけど、恥ずかしくてたまらない。詳細をくれと、結々たちはそれぞれ私の手を掴んで口々におねだりしてくる。
その手を振り切って、私は机まで走って自分の鞄を引っ掴み、即座にターンした。小夏ちゃんや大地くんを含めた人たちが、私の奇行を不思議そうに眺めているのが視界の隅に入る。真っ赤な顔を隠すこともできないまま、私は教室を飛び出した。
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