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旭ともっと話したい。私はそんな風に思っていた。そのことに気付くと、むしょうにむず痒くなって、なんだかやたらと恥ずかしい。私にとっての彼は、いつの間にこんなに近い人になっていたんだろう。
でも、自分からそんな言葉を口にする勇気がない。「もっと話したいから、お茶でもしよう」。もう高校生なんだから、これぐらいの台詞、あっさり口にしてもいいはずなのに。もし旭に断られたらと想像すれば、その台詞は喉より奥、まだ胸の中にあるうちに潰れてしまう。
なんて情けないんだろう。男の子に興味を示してこなかったツケがここでやってくるなんて。もっと結々みたいに考えて、経験値を積む努力をしてくるべきだった。異性だからって、まともに友だちらしく付き合うことさえ出来ないんだから。
「なあ」
すっかり黙り込んでしまった私の横で、同じように何かを考えていたらしい旭が言った。
「付き合ってくれへん?」
しばらく黙って、沈黙の末に、私の喉からは「へえ?」と小さな変な声が出た。
付き合って。初めて言われた聞き慣れない言葉が、頭の中で何度もリフレインする。付き合って。付き合って。うそうそうそ。私がそんなこと言われたの?
視線を上げると、何でもない顔の旭と目が合った。私は慌てて俯き加減に目を落とす。
「嫌やったらええねんで」
「え、あ、えっと」
そんな即答を求められましても。放課後の教室の時と同じように、一気に体温が上昇する。でも、あの時よりきっと三℃は高い。だって、今日こんな台詞を言われるだなんて思わないじゃんか。
「だって、その……」
どうしよう。どうしよう、どうしよう。
異常事態の私を見て、旭は「あ」って声を漏らした。
「すまん。言葉足らずやった。付き合って欲しいところがあるんや」
「……え?」
「男一人やと行きにくくてな。せやから、今度一緒に行ってくれたらありがたいんやけど」
「そういうこと……?」
私の間抜けな顔を見て、旭は何もかもを察してしまった。顔の半分で困って、もう半分では堪え切れずに笑っている。
今度は恥ずかしさで更に体温が二℃上昇した。もう熱中症で気絶しそう。
「言い方が悪かったな、悪気はないんや」そして彼は私の顔を指さした。「真っ赤やで」
次には明確な怒りが湧いてきて、それに恥ずかしさと変な肩透かしの感触と、いろいろな感情がごちゃまぜになって。
「ばか!」私は笑う彼の肩を思い切り叩いた。「変な言い方しないでよ! 今のは旭が悪い!」
「せやな。ぜーんぶ俺が悪いな」
「だったら笑うな! ばか! ばーか!」
あまりに恥ずかしくて、泣きたい気分で私は旭を叩く。ただ、泣きたいのはそれだけじゃなくて。
期待外れの悲しさが、ほんのちょっとだけ、私の心をつついていた。
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