1-8 雨宿りはいらない

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「あの、出雲さんは、旭の……占いの先生なんですか」  出雲司が占い師だとは知っていたけど、旭が占いをするなんて初耳だ。でも、「俺はせえへんよ」と旭は否定した。 「先生なんて言えるものじゃないけど。旭が、雨を呼ぶことが出来るのは知ってるかな」  出雲さんの言葉に、私は頷く。 「信じられなかったけど……でも、今は、本当だと思ってます」 「私も最初は半信半疑だったけどね。だからこそ、旭の力はすごい。このままにしておくのはもったいないからね、もっと自由に雨を操れるようになれたらと思って、出来ることをさせてもらっている。少なくとも、止ませるようになれたらいいね」 「そう簡単にはいかへんのよなあ。降らせることは出来るんやけど」 「だからって傘ぐらいささないと、いつかひどい風邪をひいて後悔するよ」  旭が傘をささないでしょっちゅうずぶ濡れになることは、周知の事実らしい。私も五月に見かけた旭の姿を思い出して、思わず笑ってしまう。 「動物と話せるなんていうのも羨ましいよね」  出雲さんが微笑んで、私も頷いた。旭がぷちと話している光景は、すっかり私には馴染んでいた。私もぷちと話してみたい。 「ようわからんやつもおるけど」苦笑する旭。「向こうも俺のこと、そう思てるんやろな」 「私も、訓練したら猫と話せるようになるかな……?」 「さあ。どうやろ」旭が出雲さんを見る。 「それはちょっと難しいかもしれないね」  カップの紅茶を一口飲んで、彼は苦笑した。 「旭の能力は、恐らく素質的なものだよ。生まれつき、そういった他の人とは違うものが備わっていたんだ」  出雲さんは旭の力を信じていて、だからこそ旭も出雲さんを頼ることができる。そんな信頼関係が垣間見えて、旭が彼を先生と慕う理由が理解できた。雨に濡れる彼を気味が悪いと言わず、風邪をひくと心配するんだから。 「もしかして、遺伝したってこと?」 「わからへん。違うと思うけど」 「聞いてみたらいいのに」 「無理や」  カップを手にする旭にきっぱり却下される。そんなに両親と仲が悪いんだろうか。 「遺伝でもなんでも、こんな力を持つ人間は他に会ったことがない」  私が旭に問いかける前に、出雲さんが言った。物腰は柔らかいけど、問い詰めてはいけない空気を流石の私も察する。
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