1-9 雨宿りはいらない

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1-9 雨宿りはいらない

 翌日の昼休み、私は当然の如く結々に詰められていた。もちろん、昨日の呼び出しのことで。 「はあー。梓、いつの間にそんな人作ってたのー?」 「だから、そんなっていっても、旭はただの友だち。落とし物を届けてくれただけ」 「ふーん、旭くんっていうんだ」  はっとして、私はわざと憮然とした顔を作り、手元のお弁当箱からプチトマトをつまんで口に放り込んだ。今日は朝から結々以外の友だちにも詳細を求められて、大変だった。ただの友だち、と何回繰り返したかわからない。 「そんなに意外? 私に男友だちがいるってこと」逆に問い詰めてみる。 「意外っていったら意外。けど悪い意味じゃないってば。そうつんけんしなさんな」  謝罪の代わりに、結々は卵焼きを私のお弁当に移す。山吹家の卵焼きは美味しい。私は黙って口に運んで噛み締めた。ほんのりした甘味がふわりと口の中で溶けていく。 「図書館で会ったんでしょ。いいなあ。あたしも通ってみようかなあ」 「図書館はそういう場所じゃないから。それに、結々も一回見たことある子だよ」 「うそ、どこで」  五月の初めに図書館前で雨に濡れていた男の子だと言うと、彼女は目を真ん丸にして驚いた。「あの変なやつ? マジで?」  マジで、と私は頷く。彼が雨を降らせられるとか、猫と話せるとか、そんな話は抜きにして、私は旭と仲良くなった経緯を手短に説明した。 「そういうこともあるんだねえ。そんな自然な出会いって羨ましいわ」 「そうはいってもね、ただの友だちだから。みんな勘違いしてるんだよ」 「でもただの友だちならさ、わざわざ……」  言いかけた結々が、はっと口を閉じた。何ごとかと思って、彼女の視線を辿ろうとしたとき、「わっ」と後ろから声をかけられる。思わずびくっと身を竦ませて、振り向いた私は安堵のため息をついた。 「大地くん……びっくりした」 「何の話? 昨日のこと?」  近くでお弁当を食べていた彼にも聞かれていたみたい。「彼氏とかじゃなくって?」どさくさに紛れて、大地くんまでそんなことを言ってくる。 「違うってば。ほんっとーにただの知り合い。友だちっていうだけ」 「けど意外だな。梓ちゃんって、男子とか興味ないって感じなのに。……ねえ」  彼に同意を求められて、はっとした結々がこくこくと頷いた。うっかり彼に見惚れていたらしい。お箸で挟んでいたブロッコリーが、ぽろりとお弁当箱の中に落ちた。 「普通、わざわざ学校まで来るかな」そして彼も結々とおんなじことを言う。 「そう、あたしも思ってた。……ね、梓?」 「もー、だから違うってば!」憤慨する私を見て大地くんが笑って、結々もくすくす笑っている。完全にからかわれてる。みんなこんな話が大好きだ。私はふんとそっぽを向いて、食べ終わったお弁当箱を閉じた。
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