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逃げるように学校を後にして、私はなおも図書館に行くか迷った。けれど、結々や大地くんの推測が正しければまだしも、旭との間にやましいことが何もないなら躊躇う必要はない。
そう思いながら歩いていると、図書館のそばで旭を見つけた。歩道と施設を仕切る生垣の前に屈んで、わさわさ茂るキンモクセイの間を覗き込んでいる。相変わらず変な高校生だ。私を見つけると軽く片手を上げてくるから、私も右手を小さく上げる。
近寄った生垣には、ぶち猫のぷちがいた。
「おいで、ぷち。ほら」
私も変な高校生になって、ぷちに両手を伸ばしてみる。
「そんな気分やないんやと」
旭の言葉通り、ぷちは私の手を前足で軽くパンチした。その足をぺろぺろ舐めて、ついでに毛づくろいまで始める始末。
「可愛くないよー、ぷち」
ぷちの緑の瞳が私を見上げる。「ほんま?」旭がぷちの気持ちを代弁する。
「うそうそ。ぷちは可愛い。猫の中で一番可愛い」
「ほんなら良かった」
旭が言うと同時に、ぷちは毛づくろいを再開する。抱きしめて頬ずりしたいけど、ここは我慢だ。
「あ、そういや、昨日返事聞いてなかったな」
大あくびをするぷちを見ていると、旭が言った。昨日私が盛大に勘違いした「付き合って」の返事だ。
「どこに行くつもりなの」
無理な場所を言われても困る。そう思って尋ねると、彼は市の中心にあるショッピングモール兼アミューズメント施設の名前を答えた。そこなら私も何度か遊んだことがあるし、電車で乗り継ぎもせず行ける距離。
「うん、いいよ」
「ほんまに?」
頷くと、こっちを向く旭の顔がぱっと明るくなった。まるで子どもみたいな表情で、喜んでくれているのがありありと伝わって、私もなんだか嬉しくなる。
「いっぱいお店あるけど、どこに行くの」
「えっとな……」少し考えて、彼は「内緒や」と言った。
「ここまできて?」
「心配すんなや。七瀬なら退屈せんと思う」
にゃおんって可愛い声がして、私たちはぷちの方を見る。いつの間にか、身体の下に手足を折り畳む香箱座りで、こっちを見つめているぷち。
「あかんよ、おまえは連れていけん」
先の黒い尻尾が、まるで抗議するように地面を叩く。
「ごめんね、ぷち。またいっぱい遊ぼうね」
「そんなら今だっこしてくれって」
「いいの?」
おずおず手を伸ばして、ぷちを抱き上げた。今度は全く抵抗せず、私の腕の中でじっとしている。その頭に念願の頬ずりをしつつ、ふさふさの喉元を指先でさすった。
「おまえはほんまにわがままやな」
彼の言葉に、私も思わず笑ってしまう。旭が苦笑するのに構わず、甘えるぷちはごろごろと気持ちよさげに喉を鳴らしていた。
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