1-10 雨宿りはいらない

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1-10 雨宿りはいらない

 六月最後の日、私は実のところ浮足立っていた。二日後の日曜日は、旭と出かける予定。あれから私は、彼の言っていた施設、「ニューシティ・楠」のホームページを開いてショップ一覧を眺めては、どこにいくつもりだろうと考えていた。男一人で行きにくいとなれば、お洒落な喫茶店や雑貨屋だろうか。なんらかの映画かもしれない。ゲームセンターは一人でも行けるだろう。あれこれ考えて、私はわくわくしていた。  放課後になって、部活に行く結々と別れる。油断すると鼻歌さえ出て来そうな心持ちで、靴を履き替えて校舎から出た。午後四時の眩しい日差しの中、グラウンドで運動部の生徒たちが駆け回っている。梅雨が明け、いつも通りの日常は夏を迎えていた。  校門に向けて歩く途中に、自販機とベンチの置かれたスペースがある。そこで私は呼び止められた。 「大地くん……?」  珍しく、大地くんが一人でベンチに座ってジュースを飲んでいた。「帰るとこ?」って話しかけてくる。 「うん。そっちは、今日は部活ないの」 「今日は休んだ。まあサボりかな」  誰かとの待ち合わせかと思ったけど、どうやら違うらしい。それじゃあって手を振って帰ろうとすると、「ちょっと待って」って尚も彼は私を呼ぶ。 「梓ちゃんも何か飲む? 奢るよ」  思わぬ台詞に、私は咄嗟に首を横に振った。 「悪いよ、そんなの」 「いいってば」  何でこんなに奢りたがるんだろう。不思議に思いながら、私はいらないって返事をした。すると彼は、「今日も図書館?」なんて脈絡のないことを言う。 「そうだけど……」 「近くの大きいとこだよな。じゃあ俺も行ってみようかな」  ぎょっとして、思わず「なんで」って言ってしまう。私の言葉に、彼は「困る?」なんて意地悪な返事をする。 「いや、その……」今日もきっと旭に会う。毎日ではないし約束もしてないけど、その可能性は大いにある。旭と大地くんが顔を合わせて、私には何の問題もないはずだけど。でもなんでだろう、すごく嫌だ。市立図書館に同級生が行くのを止める理由なんて、あるわけがないのに。  邪魔してほしくない。そう思うのは、私のわがままだろうか。  黙り込んでしまった私に、大地くんは更にたたみかける。 「彼氏が来るから?」  かっと頭が熱くなった。散々違うって言ったのに、まだそんなことを言う。私が他校の男の子と仲良くなっただけで、なんでこうもつつかれないといけないの。男友だちだって何度も言ってるのに、どうしてみんな放っておいてくれないの。 「だから違うって言ってるじゃん! なんでそんなに引きずるの!」 「ほんとに?」 「ほんとだよ、どうして疑うの!」  思わず声を荒げる私とは正反対に、彼はジュースの缶をベンチに置いて静かに立ち上がった。唇を噛んで、私はその顔を見上げる。気さくで楽しい同級生だと思っていたのに、こんなの、嫌いになってしまう。
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