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クラスで結々と仲良くなったのは、本当に幸いだったと思う。
月曜日の昼休み、お弁当を食べ終えると、結々はいそいそと鞄から雑誌を取り出した。
「何、それ?」
「梓はこういうの読まないかなー」
表紙を見せられるけど、中央で笑顔を浮かべる綺麗な女性には、CMで見た気がするという感想しかなかった。パラパラとめくられる雑誌を、机の向かい側から覗き込む。教室は昼休みらしくざわついていて、窓際列前方にいる私たちには誰も目を止めない。
「ティーンズ雑誌の一冊ぐらい、読んでた方がいいよ」
「ふーん」
確か、天文部の人たちもこういう雑誌を読んでいた気がする。お安めのブランドの紹介、ドラマの見どころ、人気俳優へのインタビュー。興味を持つべきだと思うけど、なかなか気が進まない。毎月お小遣いを出してまで買おうと思えないし、かといって数か月前の中古を買ってもあまり意味がない気がする。
「図書館にあるかなあ……」
「えー、流石にないんじゃない?」
結々は可笑しそうに笑う。平均値の私より少し背が高くて、セミロングの私より髪は少し長くて、若干くせのあるそれを背中に垂らしている。そんな彼女は、私よりずっとこういう雑誌が似合う。それでいて派手過ぎないところで、馬が合うんだ。
「あっ、それでさ、これ見てよ」
思いついた顔をして、結々は目当てのページをめくる。どれどれと私も覗き込む。「見て、この人!」こっちに向いたページの中には、若い男の人がいた。
「カリスマ、占い師……」
「出雲さん!」
見出しを呟く私に、結々が重ねた。確かに、「出雲司」という名前が文頭に書かれていた。ページにはインタビュー時の写真が載っていて、中では面立ちの整った出雲という人が微笑んでいる。いわゆる、今時のイケメンっていうやつ。
「テレビとか出てる人?」
「ううん、そーいうのはまだみたいだけど。でもすっごい当たるって有名だよ。ほら、ここ」
「……えっ、楠市って、ここ?」
「そうそう! あたしが行ってた中学でけっこう噂になってた。だって、市内に有名人がいるんだよ」
雑誌の記事によると、出雲司の所在は楠市内とのことだった。それなのに名前さえ聞いたことのない私は、本当に女子高生なんだろうか。疑問に思う。
「全然知らなかった」
「まー、仕方ないよ。あたしらも仲間内で話題にしてた感じだったし。それに、なかなか占ってもらえないしね」
わかった。私は手を叩いた。「予約がいっぱいなんだ」
「そーいうことじゃなくって。そもそも、予約したって子がいないと思う」結々は口を尖らせた。「学生のお小遣いで出せる料金じゃないってこと」
「そっか」なるほど、お金の問題ね。「いくらするの」
「ネットで見たんだけど、三十分で一万円」
「いちまんえん?」
思わず声がひっくり返った。だって、一万円なんて大金、滅多にお目にかかれない。それをたった三十分の占いで消費するなんて、信じられない。一万円あれば、ティーンズ雑誌が何冊買えるだろう。
「無理だよねえ。少なくともただの高校生には」
「むりむり、それにぼったくりじゃない、そんなの」
「高くても当たるから評判なの。あーあ、あたしが卒業して就職してお金稼げるようになって、ぱっと一万円出せるようになるのは、何年先なんだろ」
両腕で頬杖をついて、手に顎を乗せてため息を吐く。さては、と私はひらめいた。
「結々、この人に会いたいだけでしょ」彼女はどうやら面食いの気配がある。
「だってそーじゃん、地元にこんなかっこいい人がいたら、会ってみたいじゃんか。でも、お客でもないのに会えるわけないし……ちょっと梓、呆れないでよ」
ぎくり。私は不自然に目をぱちぱちさせた。「別に、呆れてなんかないけど」
「だって華の女子高生じゃん。彼氏の一人ぐらい作るか……それが無理でも、ドキドキする体験してみたいと思うじゃない」
「はあ……」馬の合う私たちだけど、こういう感性は合わないなあとつくづく思う。そもそも彼氏の一人が欲しければ、私は天文部を辞めてない。
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