「アリバイ」的な

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「アリバイ」的な

 講義を終えた夕方、ミステリ研の部室に4人の部員が集められた。  招集したのは代表である3回生の保津川である。 「君らに来てもらった理由は、もうお察しだと思うが」  そう保津川が切り出すのへ、全員が顔を見合わせながら、探り合うような表情を浮かべた。 「金庫の金が盗まれたのだ」  保津川は簡潔に述べた。 「今朝9時に俺が金庫を確認してから、講義のあと昼休みに再度確認するまでの間に、金庫に入れていた部費の2万5千円が盗まれている。この4人の中に犯人がいると確信している。自首したまえ」  しかし全員が首を振る。 仕方ない、と保津川は腕を組んだ。  部室は最後に出る者が施錠する決まりだが、鍵はドアの反対側に置かれたコンテナの下に隠している。また手提げ金庫は、4桁のキーが「4649」だと全員が知っている。  つまり、部室に入るのも金庫を開けるのも、誰でもできるようになっている。  だからどのように盗んだかは問題ではない。誰がやったか、が問題になる。 「今日の午前中、どこで何をしていたか。全員アリバイを示すんだ」  保津川が質問すると、各々喋りだした。 「ずっとアパートで寝てて、さっき起きたばっかりです」  と安藤が答える。 「講義をさぼって、加茂川の川べりでパン食べてました」  続いて伊藤が答える。 「僕は午後から講義だったので、家でだらだらスマホゲームしていました」  様子を窺って宇藤もそう答える。  誰も、これといったアリバイがない。最後に保津川は江藤に詰め寄る。 「君は、どこで何をしていた」 「えー」  困惑したように声を上げた江藤は、ちょっと待てよ、と言いながら、顎に指をあてて目線を上げる。 「そうだ、思い出した。確かその時間、僕は京都駅にいましたよ。そうそう、出発前に記念に車掌さんに写真撮影してもらって。確か8時58分発の特急『アカゲラ』で京都を出て、その後米原で特急『ひよどり』12号に乗車したんだ。あれは到着がたしか……」 (了)
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