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ねえ、あんまりきれいだ、なんていわないで。
わたしの太腿、そんなにあなたがいうほどきれいじゃないよ、あなたのご期待にきっと添えられないよ、ねえ。
きれいに小細工した写真にだまされないで、ねえ、おねがい。
あなたにきれいな身体だといわれるたびに、あなたに褒められるたびに、わたし、そんなにきれいじゃないっていいたくなるの。
お月様だって、遠くからみてるだけならきれいだけれども、近くでよくみたらボコボコしたクレーターだらけでちっともきれいじゃないというじゃない。
ねえ、あなたはセルライトだらけの太腿をみたらきっとガッカリされちゃうわ。
あなたには、ガッカリされたくないの。
でも、あなたにならすべてをみせたいともおもってしまっているの。
ムジュンしてる、二律背反乙女心。
臆病な自尊心と愛情の狭間。
ダイエットしてたときに残った醜い跡。
醜い跡も、醜くてドロドロしたこんなどうしようもない隠してしまいたい思いの丈をぶつけても受け止めてくださる?
あなたに、ほかの女の子のところに行ってほしくない、わたしだけを、みていてほしい。
ほかの女の子を褒めないでほしい、わたしだけを、いちばんに褒めて、ねえ。
よそ見をしちゃ、厭。
よそ見をしたら、めいいっぱい背伸びをしてキス、しちゃうから。
だから、ほかの女の子を見ちゃ厭。
わたしが、いちばんじゃなきゃ、厭。
こんな醜い愛情をセルライトだらけの太腿と一緒に打ち明けてしまおうか。
ねえ、次、会うとき覚悟していてね。
中秋の名月に、あなたと会う日を楽しみにしています。
どうか、お返事を冷めないうちにくださいな。
秋の夜は、まだはじまったばかり。
秋の夜長に、あなたの返事を、ゆっくり待ってます、なんて送ってみたけれど、ほんとうは、はやく、あなたと話したくて会いたくてあなたと身体を重ねたくて仕方がないのです。
あなたのクシャッと少年のように笑う無邪気な顔も激しく身体を求めてくるところも、ちょっと支配的に身体を重ねてくるところも、歩みを合わせてくれるその優しさも、実は繊細なところも、ぜんぶ、ぜんぶ、愛おしくてたまらないの、ねえ、ほんとは、この思いの丈、すべてあなたにぶつけたいの。
あなたに、滅茶苦茶にされたいの、ねえ、はやく、滅茶苦茶にして、壊れるくらいに愛し合いたいの、理性も思考も思想もこの際、ぜんぶ、どこかに置いていってあなただけしか感じたくないの。
ああ、はやく、あなたに会いたい、あなたとはやく繋がりたい。
ずっと満月の夜だったらいいのに。
そうしたら、ずっとあなたと繋がり合えるのに。
ねえ、こんな醜い愛情も跡も、あなたにしかみせないから。
わたしの秘密は、あなただけが知っていたらいいの。
このまま、あなたのもとに駆け出してしまいたい衝動を、ただ胸に秘めて月を眺める。
あなたも、同じ月を、いま眺めているのだろうか、あなたと同じ時を、いま過ごしているのだろうか。
いま以外、いらない。
未来なんかなくていい、あなたと、いまを、ともに過ごしたい。
あなたのことも、滅茶苦茶にしてしまいたい。
ねえ、はやく会いたい、なんていますぐいいたい。
プルルル。
あっ、着信。
あなたから!
『も、もしもし!』
──『もしもし、起きてたならよかった。いまから会わない?』
その誘いを聞いて、そのまま駆け出してしまった。
それから先は、わたしとあのひとの秘密だからこれ以上は、内緒。
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