お月見泥棒は月の精

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「あ、真希。あんた丁度良かった」  中秋の名月当日の昼間。  母は、月見団子を頂戴するだけのために実家へ訪れた私に声をかける。 「これ、持って行って」  リビングのテーブルに置いてあったススキと月見団子を手際よく包み、私に託す。 「え、団子だけでいいよ」  実家でのお月見は、同居のおじいちゃんが亡くなった7年前からの恒例行事だ。  今年から大学の近くでひとり暮らしを始めた私は、お月見だからと言って実家でゆっくり過ごすつもりは無い。  だけど、おばあちゃんが作る月見団子を食べないと「秋が来た!」という気分になれないので、こうして電車で2時間かけてわざわざ取りに来たわけだが……。 「おばあちゃんが風邪を引いたから、ウチではお月見中止にするのよ。今日はちょっと冷えるしね。おばあちゃん、すごくゴネたけど『真希がお月見してくれるから』って事で諦めてもらったのよ」  勝手にそんな話にもっていかれても困るが、まぁこの場合は仕方がないのか。 「おばあちゃんは?」 「部屋で寝ている。声かけていくならマスクしなさいね」  と母は私にマスクを渡してきた。
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