お月見泥棒は月の精

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 ―――コンコン。 「おばあちゃん、入るよ」  まだ明るい窓の外を眺めながら、ベッドに横になっているおばあちゃん。  私が部屋に入るとゆっくりこちらを向いた。 「あぁ、真希。おかえり」  おばあちゃんは風邪を引いたとはいえ、元気そうな表情だった。 「おばあちゃん、風邪はどお?熱があったりするの?病院は行った?」 「熱なんて無いよ。病院は夕方連れて行ってもらうんだけどさ。……ちょっと咳しただけで、あぁ月見は中止だって和江(かずえ)さん。結局あの人が(らく)したいだけよね、そんな大した料理を作るわけでもないのに」  和江さんとは私の母のこと。  おばあちゃんはブツブツ言いながら、時々咳をした。  うん、これは安静にしていた方がいいかもしれない。  我が家では毎年、クリスマス以上にお月見に気合いを入れる。  ずっと昔からではなく、おじいちゃんが亡くなったその年から。 「じいさんが寂しがるといけないから、ちゃーんとお月見してあげてね」  おばあちゃんは私の手を取り、念を押す。  生前、私達の前ではそんな素振りを見せていなかったけど、おじいちゃんとおばあちゃんは若い頃からずっとラブラブだったとか。  そのおじいちゃんは亡くなる際に「ワシは月の光になってばあさんを見守っとるからな。だからそんなに悲しまんでええんや」と、皆の前でおばあちゃんに言った。  それ以来おばあちゃんは、月が良く見える南窓のある2階の部屋を自室にし、十五夜の夜にはご馳走と月見団子を作って盛大に祝うようになった。
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