お月見泥棒は月の精

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 おばあちゃんたってのお願いとはいえ、わざわざひとりでご馳走を作るつもりはない。  何より、ひとり暮らしを始めてやっと長年の夢が叶えられるのだ。  私はススキと団子を持ったまま、アパートの近くの駅で降り、ウキウキしながら駅ビル内のファーストフード店へ立ち寄った。  そう実は私、十五夜の夜に満月を見ながら『お月見バーガー』を食べる事が夢だったのだ!  実家に住んでいる間のお月見ではおじいちゃんが好きだったメニューを中心としたご馳走が並んでいたし、夜にファーストフードなんて!と叱られるのはわかっていたから諦めていた。  しかし今はひとり暮らし。  何を好きに食べても文句は言われない。  思わぬススキも手に入ったことだし、お月見バーガーと月見団子で『ひとり月見』を堪能しようじゃないか!  帰宅した頃には夕方になり、私は慌てて狭いベランダに椅子、段ボールを積み重ねた机、エアコンの室外機の上にはススキを用意する。  月見団子を白いお皿の上に、一番下は6個を、その上に3個と団子を並べ、最後の1個を一番上に置いた。  温かいお茶もいるかな、と思いお湯を沸かし、マグカップに紅茶を淹れる。  購入した『月見バーガー』とポテトが入った紙袋とマグカップ、そして月見団子をお盆に載せ、ベランダに出る頃にはすっかり日が暮れていた。  ―――東の空から、オレンジ色をした大きな月がこちらをのぞいていた。
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