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月齢30(晦日月) 月神の神隠し
待宵月のたびに月読は、狛を光の道へと導くべく準備を進め、
己の父神に、許しを請いに行き続けた。
そしてようやく、狛が父神に拝謁する許可を取り付けたのだった。
月読は、狛へ永遠の愛を囁く。
「狛、私は貴女と、ずっと共に過ごしたい」
「うん。月読は、私の命を拾った人。私の魂は貴方のもの。だから、月読の思うままに」
「狛、大切にします。現世にいる限り、貴女の一生は僅かなもの。だから、私と同じものになってほしい」
「月読に従うよ。どうすればいいの?」
月読は、狛の身体をすっぽりと包み込む。
「これまで狛は、私を受け入れ続けてくれた。今、狛の身体は人と神、半分ずつになってる」
「…」
「でも、人である限り、何時かは朽ちる。だから、全てを神に上書きしなくてはいけない」
「…神様に、……私が?」
「狛は、月明かりの意味を持つ氏と、神の使いの名を持っている。その資格はあるんだよ」
月読は、狛が不安にならないように、ゆっくりと説明する。
「ようやく、父が狛に会うと言ってくれた。まだ分からないけれど、とりあえず前進したんだ」
「待宵月に帰ってこなかったのは、そういう事だったんだね」
「そうだよ。人の生は一瞬だ。初めはそれでいいと思っていたけれど、狛の命が尽きて、狛の居ない世界のそれから先を、独りで生きていくのは、…辛い」
月読の、狛を抱く腕の力が強くなる。
「狛、私と久遠を伴にしてほしい」
「はい。月読と一緒なら、私は大丈夫」
狛は、月読の言葉を全て受け入れた。
満月の夜。
海には、いつかのように光の道が架かっていた。
「いくよ、狛」
「はい、月読」
二人は、光の道に足を踏み入れる。
足は、海に沈むことなく、光の道を踏みしめていた。
狛は、神の世界に誘われ、
月読の父神に、拝謁する。
そして、父神からの許可が下り、
狛は、神の一柱となることを許された。
狛と月読の時間が遂に重なる。
月読が願い、狛が受け入れた通りに。
「狛、ありがとう」
「私こそ、月読」
これから続く久遠の時間を、
二人は、同じ歩調で歩いていく。
狛と月読は、
月明かりが作る光の道、
その向こう側の世界で、
永久に仲睦まじく、
ぴったりと、寄り添い続けた。
− 終幕 −
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