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月齢16(十六夜月) 狛の大切なものたち
月読は、狛を部屋へ連れて来て、
まず、狛の持ち物に関することを尋ねた。
「狛は、自分の持ち物はどうしたの?」
「…何もかも置いてきました。大事なものがあるんですが…」
すると、月読が狛の額に己の額を合わせた。
「なななな何ですか!?」
「狛、落ち着いて。あっちの家を思い出して」
「…え?」
「狛が、あっちの家から取り戻したいものを、思い出して」
そう言われ、狛は考える。
まずは、通帳等の貴重品。
靴、服、バッグ、アクセサリーなど。
これらには、家族からの贈り物が含まれていて、
狛が手入れをしながら、大切に使い続けてきたものたちばかり。
そして一番大事なのが写真。
もうこの世にいない、かつてここにいたという、狛の家族の証。
それらをひとつひとつ、思い浮かべた。
どれもこれも、手元に置いておきたい大切なものたちだった。
「それで全部?」
「…?はい。あとは無くてもいいです」
「わかった」
そう言って離れると、奥の方の部屋へと消えていった。
「…?」
10分程して、月読は、狛の元へ戻ってきた。
「狛、おいで。君の部屋へ案内するよ」
そう言って、さっき消えた方向へ、月読と向かう。
一つの扉の前に止まり、ドアを開ける。
「ここが私の部屋。いつでも入っていいから」
「…」
そして、反対側の部屋のドアを開ける。
「ここが、狛の部屋。調度品は揃ってる。足りないものは、いつでも言ってほしい」
「……ぁ」
狛は、自分の部屋だと言われたその場所に、
自分の、大切に使ってきた物たちがいたことに驚いた。
それは先程、頭の中で思い浮かべていたものばかりで、
その中に、一番大切な写真があった。
写真の中の家族にそっと触れる。
「……月読、ありがとう。私の大切なものたちを、連れて来てくれて」
「これくらい、お安い御用ですよ。みんな、狛の側に還りたがりましたから」
月読は、にっこりと微笑み、狛の頬をするりと撫でた。
狛は、月読が本当に神様なのかもしれないと思ったが、
詮索はしないことにした。
すでに自分は、月読のものになると宣言し、ここにいて、
月読を、月読として受け入れると、
狛は、心に決めたのだから。
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