月齢17(立待月) 神様との生活

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月齢17(立待月) 神様との生活

 穏やかな毎日が続いていく。  狛は、幸せを噛みしめていた。  月読は、何時いかなる時も、狛の事を大切にした。  情を交わす行為で、あまり感じるものがなかった狛。  元カレとの情事は、いつも一方的に終わっていた。 「反応が薄い」  そう言われたのも最近の事。  自分が悪かったのかと、涙に暮れていた時もあったが、  狛は、相手によって感じ方が違うのだと気づく。  月読との情事は、これまでになく満たされた。  心の繋がりも、  身体の繋がりも。 「狛」  月読は、今日も狛の名を甘く囁く。  女の狛よりも美しく、しなやかな身体が、  狛の身体を優しく包み込む。 「狛」  重なる鼓動。  甘い吐息。  狛は、今日も月読の愛に包まれていた。  食事は、二人で作り、二人で食べた。 「月読、私が作るから座ってて」  と初めに言った時、 「狛、男も女も平等。貴賤なんて無いのだから」  と取り合わなかった。  結局、一緒に作ることで落ち着き、  朝も昼も夜も、ずっと一緒に過ごしていた。  狛は、今回の件で仕事を辞めた。  小さい会社で、深雪と同じ職場。  自分が逃げるのは癪だったが、  心が悲鳴を上げたので、申し訳なかったが辞めた。 「狛、働かないで私の傍にいてほしい」  月読からそう言われ、  黙ってそれに従った。  今は、月読の部屋で、所謂『家事手伝い』状態。  それも、月読がことごとく手伝うので、  その家事手伝いも怪しい。  そして月読は、24時間ずっとこの部屋にいる。  仕事は…?  と思ったが、不労所得でもあるのかと、  気にも留めなかった。  狛の生活は、あの日を境に一変した。  愛があると思っていた、元カレとの逢瀬も、  それが虚像だったと気づいた。  月読が与えてくれる愛は、深く、広く、時折り重い。  だけど、狛はその愛を、抵抗なく受け入れた。  死の淵から救い出してくれた、月読の愛は、  狛の抉られた傷を、優しく癒してくれたのだから。
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