月齢19(臥待月) 口惜しさを晴らす

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月齢19(臥待月) 口惜しさを晴らす

 そんなある日、狛は所用で駅前に来ていた。  用事を終え、月読のいる部屋へ戻ろうとしたとき、 「あー、狛!」 「狛」  その声を聞いた途端、ズクンと心の臓が軋んだ。  その声の主は、狛を裏切った男女。  二人は、狛の行く手を遮った。  二人は狛に、尤もらしいことを並べ連ねる。  聞く気も、話す気もなかったが、  狛への所業を忘れて、二人は捲し立ててくる。  それにウンザリしていると、 「狛」  鈴の音のような、凛とした声が聞こえ、  狛の体を、覚えのある温かさが包んだ。    狛は、思った以上に緊張していたのか、  月読が来てくれて、ほっと息を吐いた。 「狛、この人たちは?」 「…元彼と、彼を奪った女」 「奪った…って、狛に魅力が無かっただけじゃん」  菜奈の言葉を聞いた月読が、不敵に笑う。 「ああ…、狛の魅力に気付かなかった愚かな奴か…」 「何だと!?」 「こんなに魅力的な狛を、手放してくれてありがとう。お前は、女を悦ばせる術を知らないのだな。心の繋がりも、身体の繋がりも、狛は完璧で、女性として、こんなに可愛らしいのに」  そう省吾に、煽るように言葉を投げつけ、  狛に、情愛を滲ませた笑みを向けた。 「……っ」  省吾は、月読の挑発に苛立ちを見せる。 「それに、自分に見合わぬ物を求めないほうがいい。道具も人を選ぶ。道具に気に入られなければ、障りがあるぞ?」  月読は、ブランドの服を着こなし、装飾品も、  一つ一つが、高価だと分かるものを身に着けていた。  どこからどう見ても、スパダリの御曹司だった。  ゴテゴテな省吾とは比べるまでもなく、  格の差は歴然だった。 「うるさい!俺が何を持とうと勝手だろう!」 「まあ、お前が良いなら好きにしろ。そいつらは、お前を気に入らないようだがな」  そう言うと月読は、狛にやさしく微笑み、 「狛、帰ろう」 「うん。ありがとう、月読」  月読は、狛の髪をひと撫ですると、  見せつけるように、狛の腰を抱き、  甘い二人の世界を振り撒きながら、  狛の心に傷を付けた二人に、  得も言われぬ敗北感を味わわせた。
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