月齢23(下弦の月) 愛しい想いの行方

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月齢23(下弦の月) 愛しい想いの行方

 狛が月読の元へ来て、幾日もの時が過ぎ、  月は、幾重にも月齢を重ねていった。  狛は、いつものように買い物へと出掛ける。  月読みから渡された、がま口財布。  これがまた、不思議な財布で、今は空っぽの財布が、  お会計を済ませる時、きっちりその額が収まっているのだ。 「月読、このお財布って何なの?」 「必要な時に、必要なだけお金が出てくる財布」 「だから、それが何か聞いてるんだけど?」 「狛、気にしないで使うといい。説明は難しい」 「…」  無駄遣いをするつもりはないし、多分、聞いても分からないので、  それ以上追及しなかった。  リビングの大きな窓に、今日も待宵月が昇ってくる。  満月の一日前、満月を楽しみに待つという名の待宵月。  なぜかその一日だけ、月読は帰ってこなかった。  理由は、何となく聞いてない。  聞いてはいけないような気がしていたから。  月読と暮らしだして、  元カレたちに思いがけず、口惜しさを晴らすことができ、  狛の心の傷は、月読が注ぐ愛で癒えた。    時々、買い物に出る以外は、ずっとこの部屋に籠っている。  狛は、世の中と隔絶した感覚になっていた。  月読は、愛しい狛をその手に抱き、  狛を人の世の理から切り離し、  神々の世界へと導こうとしていた。  それも、嫌だとは思わない。  狛を大切にしてくれる月読が、  狛の心の中に、既に住み着いていたから。 「狛」  待宵月が沈み、天照が昇った朝、  月読が帰ってきた。 「おかえりなさい、月読」 「ごめんなさい、狛。寂しかったでしょう?」 「…うん、少し。でも、月読は帰ってきてくれるから大丈夫」  月読は、狛を自分の隣に座らせ、  その頬をするりと撫でて、話を切り出す。 「狛、私と行ってほしいところがある」 「どこに?月読と一緒ならどこにでも」 「私の父に会ってほしい」 「お父様に…?はい、わかりました」  月読が本当の神様ならば、  月読の父親は、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)だ。  狛は、神々の世界に踏み入るのだと、  気を引き締めた。
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