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月齢00(新月) 大切だった人たちの裏切り
月代狛(つきしろこま)は今、失意のどん底にいた。
大切だった、ずっと大切に思っていた彼、
大槻省吾(おおつきしょうご)
そして、中学の頃からの同級生で親友、
島村菜奈(しまむらなな)
狛は、二人を同時に失った。
「ごめんね?狛。だって、好きになっちゃったんだもん。省吾も私の方が好きだって。仕方ないよね?私たち、相思相愛なんだもの」
深雪は、悪びれもなく呟く。
「おまえ、抱いても反応薄いし、付き合っていて面白みもないし、一緒にいてつまらない」
省吾は、容赦なく狛の心を深く抉った。
どうしてなのか分からない。
前兆はまるでなかった。
いや、二人の関係は1年程続いていたというから、
狛が気付いていなかっただけ。
自分の鈍さに、思わずため息が出る。
ふらふらと、夜の街を屍のように彷徨う。
やがて、海岸沿いの堤防にたどり着いた。
狛の目線の高さほどまである、高い堤防。
高い壁の向こうに、月が出ているのか、
ぼんやりと明かりが見えた。
堤防は、こちら側が急な坂道のようになっていて、
狛は、すこし後じさり、助走を付けて駆けあがった。
海は、満々と水を湛え、
月は、水平線の向こうから、ちょうど姿を顕したばかり。
凍えるような冬の空気に、
どこか温かみのある、ぼんやりとした紅い月が昇っていた。
飽きもせず、ただただその月が、天へ昇っていくのを見ていた。
赤い月は、皓々と月明りを湛えていく。
真っ暗だった海に、月に向かって光の道が出来た。
波は凪いでいて、ゆらゆらと光の道を揺らす。
ふと、この道を進むと、どこに行けるのだろうかと、
狛は、そんなことに興味を持った。
ふらりと一歩、海へと歩みを進める。
身体は堤防の端にすぐに到達した。
「…」
この世は理不尽なことばかり。
すでに血筋は自分だけ。
だから、世の中に迷惑を掛けないように生きてきた。
なのに…。
大切だった人たちの裏切りに、
狛の心は、『消えたい』と叫んでいた。
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