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幼なじみはハイスペ男子になっていた
ほぉ~、綺麗ね……
眼下に広がる都心の夜景を眺め、美咲は自分の置かれている状況から目をそらす。
廉から事前に住まいだと説明がなければ、間違いなく高級ホテルに連れて来られたと感じただろう。
高級感あふれる大理石調の床にキラキラと輝くシャンデリアが下がるロビーの入り口で、コンシェルジュらしき人に頭を下げられた時は、どう返していいか分からず戸惑ってしまった。
しかも、エレベーターに乗り込み、四角い穴に居住者専用のカードキーを差すと自動でエレベーターが動き出すあたり、ここは大層高級なタワーマンションらしい。
慣れない空間に陳腐な疑問を口にしてしまう程度には緊張していた。
「他の人と重なったらカードキーをそれぞれ挿すの?」
「このエレベーターは、最上階専用だから他の人は来ないよ。後で説明するけど、他の居住者は別のエレベーターを使うし、エントランスも別だから間違えないようにね。間違えて、そっちのエレベーターに乗っても家には帰れないから」
「はぁ……」
左様ですか。
つまり、このタワーマンションの最上階フロア全てが廉の居住空間なのね。
どれだけ広い家に住んでるのよ。
美咲の隣に立つ幼馴染みは、会わなかった三年でハイスペック男子になっていたようだ。
廉の口から飛び出す言葉の数々に、改めて住む世界が違うと思い知らされ、美咲は逃避行動を起こすしかなかった。
「やっぱり、女の子はロマンチックな夜景とか好きなんだね」
リビングの大きな窓に手をつけ夜景を見ていた美咲の肩に大きな手が置かれ、引き寄せられる。
「夜景も綺麗だけど、私はここから見るビル群を照らす朝焼けが好きだな。朝陽がビル群を照らして本当に綺麗なんだよ。そんな光景を美咲と二人で見られる日が来るなんて、幸せだ」
廉の胸に抱き込まれ、ささやかれる甘い言葉にも美咲の心が熱くなることはない。
大人な廉のことだ。女の喜ぶ言葉をサラッと言うなんてお手のモノよね。この部屋にどれだけの女を連れ込んでいたことやら。
顔が良くて、金持ちで、大人で……、こんなハイスペックな男に、『夜景の見える部屋で君と一緒に朝焼けが見たい』なんて言われて落ちない女はいない。
少しだけときめいてしまった自分にも腹が立ち、美咲の心は廉が甘い言葉を紡げば紡ぐほど、冷めていく。
川口さんみたいな大人の女なら、気の利いた返しだって出来るんでしょうね。
今でも廉と川口さんは想い合っているんだろうから……。私みたいなお子さまに構っていないで、さっさと川口さんにプロポーズでも何でもすれば良いのよ。
美咲はやさぐれた気持ちのまま、心にもないことを口にする。
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