過保護なアイツがやってくる

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過保護なアイツがやってくる

「美咲! そろそろライブが始まっちゃうよぉ。早く行かないと前の方で観られなくなっちゃう! BRADMOONが学園祭で歌うなんて滅多にないんだから」 「あっ! 瑠璃ごめん。ここ片付けて行かないと、部長に怒られる。先行ってて!」  さっきまでポテトを揚げていたフライヤーから油を抜いていた安城美咲(あんじょうみさき)は、親友の言葉に適当な返事を返した。 「もぉ~、そんなの後でいいじゃん。本当真面目なんだから! じゃあ、先行くから」  手を振り駆け出した親友の背を見送り、今日一日揚げ続けたポテトフライの熱気で火照った頬をパタパタと仰ぐ。今日は、美咲が通う大学の学園祭だった。朝から準備に追われ、所属サークルが出したフライドポテトの模擬店内でひたすら、ポテトを揚げ続けること半日、夕方になり他の模擬店が店終いを開始し、今やっと美咲も後片付けを開始したところだった。  今夜は、今をときめく男性五人組アイドルグループ『BRADMOON』が初めて学園祭でライブをする事になっていた。その生ライブ見たさに学生の殆どがライブの開かれる講堂へと向かった今、見渡す限り、模擬店が並べられた区域に残っているのは美咲以外には見当たらない。 「本当、すごい人気よね。BRADMOOMだっけ……」  一人つぶやいた言葉が、哀愁漂う秋の空に溶け消えていく。そんな物悲しい気持ちになるのもきっと、風が冷たくなり始めた秋空のせい。そんなことを思いながら、油の抜けたフライヤーをテキパキと片付けにかかる。  部長に指示された後片付けも、もうすぐ終わる。あとは、パパッと油を落としたら、あとは明日、他の部員が片付けてくれるだろう。そんな事を思いながら、早く帰らなければと焦る気持ちが胸に去来しては消えていく。  美咲には、とある事情から、すぐにでもこの場を立ち去りたい理由があった。その事情のために、率先して後片付け役を希望したのだ。  BRADMOON……  あのアイドルグループとは関わらない方がいい。  BRADMOONがライブをするなら、奴が大学構内にいる可能性がある。  早く帰ろう……  美咲は、人が居なくなった模擬店を見回し、片付けを急いだ。
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