高嶺の上司の優しいCommand

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「お疲れさま、また明日」  芝崎課長は部下たちの仕事を確認すると、ようやく自分のパソコンの電源を落とした。 「さて、お仕置きの時間だな」  カツカツと革靴の音をたてて休憩スペースのソファーに近づく。ソファーの脇には一人の男性社員が正座をしていた。 「丸岡君」 「は、はい」  名前を呼ばれて正座をしたまま背中を伸ばした丸岡の顔は、すでに叱られたた犬のようだった。 「この書類、何がダメだったかわかるかな?」  芝崎課長がそう言って今日丸岡が作った書類を取り出した。  目の前に差し出された紙束を受け取り、丸岡はゆっくりと目を通す。 「こ、ここが、的確な表現ではなかった。……です」  震える指で書類を指させば、目の前に仁王立ちをしていた芝崎課長がにっこりとほほ笑んだ。 「そうだ。《Good》よくわかったな。それでは何をすればいい?」 「すぐに修正します」 「正解」  すぐさま立ち上がり自分のデスクに向かおうとした丸岡だったが、オフィスの床で正座なんかをしていたから、足が完全にしびれていた。 「ほら、危ないぞ」  そんなことを言って芝崎課長が丸岡を抱きとめた。そのままお姫様抱っこをして丸岡のデスクに連れていく。 「座れるか?」 「はい。ありがとうございます」  丸岡はデスクに着くと、すぐさま書類の訂正箇所を的確に直していく。静かなオフィスにキーボード操作の音だけが響いていた。芝崎課長は丸岡の背後に立ちその仕事ぶりを眺めていた。  丸岡の指がマウスで保存を押した瞬間、芝崎課長の大きな手のひらが丸岡の頭を撫でた。 「《Good》よくできた。素晴らしい」  その途端、丸岡の顔がふにゃりと歪んだ。  ひとしきり頭を撫でられたことで満たされたのか、丸岡はゆらゆらと椅子の上で体を揺らしていた。  そうしてひとしきり時間がたったころ、芝崎課長が口を開いた。
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