165人が本棚に入れています
本棚に追加
第13話 隣国からの訪問
隣国の王様と、その娘のお姫様がサザーランド王国に訪問する日が迫っている。
私はエリックに、訪問の際に振る舞う献立を一緒に考えてほしいと頼まれていた。
「サザーランド王国は、海に囲まれたすごくいい国ですよね。そこをアピールするのはどうですか?」
「どんな風に?」
エリックが私に食いつくように尋ねる。
「やっぱり、魚介類の料理をメインにするのがいいんじゃないでしょうか」
「サザーランド港の市場は毎日賑わっているからね。この城にも毎朝新鮮な魚介類が入ってくるよ」
エリックはそう言うと、なるほど、とうなづく。
「当たり前すぎて気づかなかったよ。うん、魚介類メインでいこう! ありがとうサラさん!」
「お役に立てたならよかったです。私も当日はお手伝いしますね!」
エリックは笑顔で私にお礼を言い、他の料理人たちに報告するため厨房の中に入っていった。
「隣国からって、やっぱり大規模なパーティーとかあるんだよね? お城のパーティーとか憧れるなぁ」
私は、独り言をつぶやきながら食堂のテーブルを拭いていく。
(キース様もきっと参加されるよね)
不意にキースを思い出し、私はさらにパーティーが楽しみになっていくのを感じた__。
マーガレットの花がテーブルの上で可憐に咲いている。
キースは公務の書類仕事をしていた。
ひと段落着いたところで、執事が入れてくれた紅茶を飲む。
「ふぅ、今日は書類が多いな」
キースはそうつぶやいてマーガレットに目をやると、先日の出来事が思い出された。
(あんな体験は初めてで楽しかった)
自分に変装をさせ、メガネをかけたら喜んでいたサラ。
ステラの店までの道のりも、子供の頃に戻ったようなワクワク感を感じることが出来た……。
楽しい思い出を振り返ると疲れも吹き飛ぶ気がするから不思議だ。
「さて、仕事に戻るか」
キースは、マーガレットに少し触れると休憩を終え、再び机に向かうのだった__。
☆
雲一つなく晴れ渡る空。
サザーランド王国と隣国とを結ぶ大橋には、何台もの黒塗りの高級車が連なっていた。
今日は、隣国であるイーストン王国の王、イーストン二世とその娘であるキャサリンがここサザーランド王国を訪問する日である。
黒塗りの高級車は次々と城の門の中に入っていく。
私は自分の部屋からその様子を見ていた。
「すごい数の車! そろそろ厨房の手伝いに行かないと!」
私は急いで身支度をし、厨房に向かう。
厨房ではエリックをはじめ、他の料理人たちが大勢の招待客のための料理を作るので右往左往していた。
私は出来上がった料理を大広間のテーブルに運んでいく仕事を頼まれた。
次々とサザーランド産の魚介類を使った料理が出来上がっていく。
そして最後の料理を運ぶと、大広間には少しずつ客が集まり出した。
「サラさんお疲れ様。助かったよ、ありがとう」
途中で料理を一緒に運んでいたエリックが私に話しかけた。
「私、こんな盛大なパーティー初めてなんです! すごいなぁ」
「イーストン王国だけじゃなくて、他の国からも大勢の要人たちが来ているからね」
「そうなんですねぇ」
私が感心しながら周りを見渡していると、近くのテーブルにいた女性客たちが何やら話をしていた。
「このパーティーって、キース様とキャサリン様のお見合いも兼ねてるってお聞きしましたのよ」
「そうなんですの? お似合いですわね」
女性たちはそう笑いながら歓談している。
(キース様が? お見合い? ……)
私は持っていたトレイを落としそうになったが、エリックがそれを受け止めてくれた。
「大丈夫? サラさん。なんか顔色が少し悪いみたいだけど」
「あ、ごめんなさい。なんでもないんです」
私は何事もなかったかのようにエリックに笑いかけた。
しかし、胸の痛みは治まりそうもない。
「じゃあ私はこれで失礼します」
心配するエリックに頭を下げると、私は早くこの場から去りたい気持ちで逃げるように自分の部屋に戻ったのだった__。
最初のコメントを投稿しよう!