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第2話 食堂のアルバイト始めました
カインと一緒に食堂の厨房へ向かう。
厨房の入り口にはカインの言う通り、『求人募集』の張り紙が貼ってあった。
中を覗くと、料理を作る人やお皿を洗う人、出来た料理を食堂に運ぶ人などがみんな忙しそうに働いている。
カインは入り口で大声で誰かを呼んだ。
「ソフィア婆さんはいるか?」
すると料理を盛り付けていたお婆さんがこちらを向いた。
「 なんだいカイン。今忙しいんだよ」
「忙しいとこすまないがここで働きたいという御仁をお連れした。話しを聞いてやってくれ」
ソフィアは私を見ると料理を盛り付ける手を休めてこちらに来てくれる。
「あんた、今から働けるかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
「今が1番忙しい時間だからね。料理を運ぶのを手伝っておくれ」
私はソフィアからエプロンを渡され、厨房を手伝うことになった。
そんな私にカインが心配そうに尋ねる。
「あまり無理はするなよ。仕事が終わる頃様子を見にくる。城の案内もしたいしな」
「ありがとうございます。無理せず頑張りますね」
私はそう言ってカインにお辞儀をした。
カインもうなづいて自分の持ち場に帰っていったのだった。
(嵐のような忙しさだった……)
どんどん空になっていく皿を下げては、また新しい皿を食堂に持っていくのを何回繰り返したか。
一息ついたところでソフィアが私のところに来た。
「お連れ様。助かったよ。採用だ。明日からここで働きな」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「あんたには昼の食堂の仕事ともうひとつ任せたい仕事がある」
「もうひとつ?」
私が不思議そうに聞くとソフィアは真面目な顔で答えた。
「この城の王子の夕食を担当してもらう」
「えっ? 王子?」
(王子様ってお抱えのシェフがいるんじゃないの?)
「とにかく、王子の夕食を運んでもらうからそのつもりで頼むよ」
何もわからない私はうなづく。
するとソフィアはしめしめという顔で笑った。
カインが自分の仕事を終え、私を連れてお城の中を案内してくれる。
「お前のことは城を管理している部署に話しておいた。部屋を貸してくれるそうだから案内しよう」
「何から何まですみせん。ありがとうございます」
私は恐縮しながらカインの後についていく。
途中、お城の主要な場所なども教えてもらったがあまりの広さに圧倒されるばかりだった。
しばらく行くとある部屋の前でカインが止まった。
「ここがお前の部屋だ。自由に使うといい」
部屋の中は白いレースのカーテンがかけられた窓やアンティークな家具が置かれたとても品のある部屋だった。
「わぁ、素敵な部屋!」
(今日からここで生活するんだ)
(食堂での仕事も決まったし、頑張ろう)
そう思っていると、思い出したことがあった。
「カインさん、ちょっと教えてほしいことがあるんです」
「ん? なんだ?」
「実は食堂の仕事の他に王子様の夕食を運ぶ仕事をソフィアさんから任されたんです」
するとカインは顔を曇らせて何かをつぶやいた。
「あの婆さん……サラに押し付けたな」
「え?」
「あーいや、なんでもない」
カインはごまかすように首を振ると再び私に問いかける。
「それで? 何を教えればいいんだ?」
「王子様のお部屋の場所を教えてください」
「わかった。案内する」
こうしてカインに王子様の部屋の場所を教えてもらった私は次の日から毎日王子様に夕食を運ぶことになるのだった。
次の日の夕食時。
私は初めて王子様に夕食を届けるため、王子様の部屋を訪れた。
コンコン
部屋をノックすると中から低い声が聞こえた。
「誰だ」
「食堂から参りました、サラと申します。夕食をお持ちしました」
「入れ」
「失礼いたします」
緊張しながら私は王子様の部屋に入った。
サザーランド王国のキース王子。
彼はこの王国の第三王子だ。
頭脳明晰、容姿端麗、高身長、高学歴……。
欠点一つない、と思われる彼だがある問題を抱えていた。
彼は極度の偏食だったのだ。
朝と昼は軽食で済ませているが、夕食はそうもいかない。
それは厨房の料理人たちの悩みの種になっていた。
腕によりをかけて作った料理も手をつけずに戻される。
夕食を運ぶ係の者も度重なる仕打ちに何人も辞めていった。
その仕事を今回から私が受け持つことになってしまったのだが、この時の私はまだこのことを全く知らなかったのだった__。
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