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第9話 ガーベラの花束
夕食の時間になり、私はいつもより急ぎ足でキースの部屋に向かった。
今日は厨房の許可を得て、私が作った料理を提供させてもらうことになったのだ。
ご飯にお味噌汁に玉子焼き……
ほとんど和食のメニューになってしまった。
きっと初めて見る料理ばかりだと思うので、キースの反応も楽しみだった。
コンコン
「キース様、サラです。夕食をお持ちしました」
「あいている。入っていいぞ」
「失礼いたします」
私はキースの部屋に入ると、いつものようにテーブルに料理を置いていく。
テーブルの真ん中に置いてあるペチュニアの花もまだ綺麗に咲いてくれていた。
(またステラさんのお店に花を見に行かないと!)
全てのお皿を並べ終えると、本を読んでいたキースは本棚に本を片付け、静かにテーブルについた。
(なんかドキドキしてきちゃったな)
和食を見て何を言われるか緊張する。
「何で立っているんだ。早く座れ」
身体に力を入れて突っ立っている私にキースが当たり前のように席につくよう促した。
「あ、はい、失礼いたします」
私が席につくと、キースは並べられた料理を見て不思議そうに尋ねる。
「これは?」
「あ、これは私が以前住んでいた場所でよく食べていた料理なんです。紹介したくて、今日は私が作ってきました」
「お前が? そうか」
そう言うと、キースはご飯の盛り付けてあるお皿からご飯をすくい、口の中に入れた。
(あ! 食べてくれた!)
「あの、お味はいかがでしょう?……」
キースの顔色を伺うように、私は小声で尋ねた。
しばらく口の中で咀嚼していたキースがご飯を飲み込む。
そして、再びご飯をすくうと口に入れたのだった。
(うそ! もう一口?)
「これは食べやすいな。俺好みだ。シンプルな味もいい」
「本当ですか? 良かった! あの、これはお味噌汁というスープのようなものです。良かったらこちらもどうぞ」
まだ温かいお味噌汁をキースの前に差し出すと、キースはそれをスープスプーンですくって口に入れる。
キースは何回かそれを繰り返した。
「初めて体験する味だが、これも俺は食べられるようだ」
(嬉しい!!!)
「私も大好きなんです! ご飯とお味噌汁を食べると元気が出るので!」
きっと私がすごく笑顔になっていたのだろう。
キースは面白そうに私を見つめ、そして小さくつぶやいた。
「またお前の話を聞かせてくれたら……」
「え?」
「お前の話を聞かせてくれたら、もう一口だけ食べてやる」
そう言って、いたずらっ子のような笑顔を見せるキースに私の胸がキュンと音を立てた気がしたのだった__。
翌日の午後。
まだ夕食まで時間があるため、私はステラの花屋に花を見に行くことにした。
ステラは店先で花に水やりをしていたが、すぐに私に気づいた。
「こんにちは、サラさん。今日も来てくれてありがとう」
「こんにちは! また新しい花を買いに来ました!」
「おや? 何かいいことがあったようだね。素敵な笑顔だ」
ステラは微笑みながら、私を店内に入れてくれる。
「今日はどんな花をお探しかな?」
笑顔を褒められて照れている私に、ステラが尋ねる。
「そうですね……嬉しいことがこの先も続いてくれたら、って思います」
私は、昨日のキースとのやりとりを思い出しながらステラの質問に答える。
「そうか。じゃあ、ガーベラはどう?『希望・常に前進』っていう花言葉を持っているんだ」
ガーベラの花を優しく見つめながら、ステラは私に説明をしてくれる。
「今の私の気持ちにすごく合っていると思います! それをお願いします」
私の言葉にうなづき、ステラはピンクや白、オレンジなどのガーベラを5本選んでくれた。
「君のこの先がもっといいものになりますように」
差し出されたガーベラの花たちは可憐に咲き誇り、これから来る未来に希望を与えてくれるようだった__。
お城に戻る坂道をのんびり登っていく。
先程買ったガーベラの花束を見て、つい笑顔になってしまう。
(早くキース様の部屋に飾りたいなぁ)
花に気を取られ、前に人がいることが全くわからなかった。
軽くその人とぶつかってしまったのだが、ガーベラが無事なことにほっとする。
「すみません! 下を見ていて気がつかなくて!」
そう言って頭を下げると、相手から明るい声が聞こえた。
「サラだったのか! 元気にしてた?」
私が相手を確認すると、そこにはレンが立っていた。
「あ、レンさんだったんですね。ごめんなさい、ぶつかってしまって」
「いいって、いいって。それより、街へ行ってたのか? 買い物?」
レンは、私の手元にあるガーベラの花束を見て不思議そうに尋ねた。
「そうなんです。ちょっと花を買いに行ってきました」
私が笑顔でそう言うと、レンはさらに質問をしてくる。
「誰かにやるのか? それとも自分の部屋に飾るの?」
「キース様のお部屋に飾る花なんですよ」
「へ、へぇ。キース様のねぇ」
キースの名前を出した途端、レンがソワソワし出した。
私はそんなレンの態度が少し気になったが、特に疑うこともせずにレンと話を続けたのだった__。
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