第1話 目覚めたらそこはお城でした

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第1話 目覚めたらそこはお城でした

 23時28分。 終電に乗り遅れそうになっている私は焦っていた。 明日は久しぶりのお休み。 早く家に帰り、ホカホカご飯とお味噌汁が食べたい。 お風呂にゆったり浸かって、その後はふかふかのおふとんで眠りたい。 そんな事を考えながら駅の階段を駆けあがる。 と、あと一段で上に上がるというところで。 そこに野良猫が寝ているのを確認したまでは覚えている。 (ただ私はホカホカご飯とお味噌汁があればいいの!) (お腹すいてるのよ! どうすんのよ!) 虚しい心の叫びだけを感じながらそこで記憶が途絶えた__。  神崎サラ26歳。 大手商社の事務の仕事をしている。 ここ最近は繁忙期のために毎日残業する羽目になっていた。 「えー、ここの書類の数字合わない……なんで?」 パソコンと睨めっこしながら私はうなる。 焦れば焦るほど負のスパイラルに落ち入る。 「だめだ。トイレ行って落ち着こう……」 グ〜〜〜 トイレから戻ると私のお腹がご飯を催促する様に鳴いた。 (あったかいご飯にお味噌汁……) 疲れた頭でボーッと考えていると後ろから声をかけられた。 「神崎さん、これ。よかったら食べて」 私が振り向くとそこには営業の矢野さんが立っていた。 矢野さんは持っている紙袋を私に渡した。 「これさ、今人気のシュークリームなんだって。今日お客さんにもらったんだけど、俺甘いもん苦手だからさ」 「え、いいんですかぁ? 矢野さんが神に見える……」 そう言って涙を拭うポーズをすると矢野さんは面白そうに笑った。 「無理しないでね。じゃあ俺は帰るけど、また明日!」 「お疲れ様でした!」 心があったかい。 矢野さんは2年先輩の営業さんだ。 目元がクールなイケメンで職場の女の子たちにかなり人気がある。 (イケメンでこんなに優しいんだもん。そりゃ人気だよね) 私はそう思いながら紙袋を開ける。  「あ! これ、秋風カフェのシュークリームだ! やった!」 毎日お店の前に行列が出来るというシューリームが眩しい。 私はそれをつかむと大事に食べ始める。 (んんん。幸せ〜!) 束の間の幸せを堪能する。 (この後も仕事頑張れそうです、矢野さん!) 私は先輩の顔を思い浮かべながらシュークリーム2個を完食した。 「うーん」 意識が戻ってくる。 (ここはどこだろう) 目がまだ開けきらない時にその声は聞こえた。 「目が覚めたか。おい、大丈夫か?」 誰かが私を心配しなが覗き込んでいる。 (もしかして私、階段から落ちて……?) (ここ病院なのかな?) 私は恐る恐る目を開ける。 すると目の前に矢野さんの姿があった。 「えっ、矢野さん?」 (何でこんなところに?) (嫌だ、迷惑かけてないよね?) 私が色々と思いを巡らせていると矢野さんは不思議そうに私に尋ねた。 「やの?誰だそれ。俺はカインだ」 (カイン?) (外国の方ですか?) (どう見ても矢野さんなんだけど) そう思い、矢野さんをジッと見つめる。 すると何か違和感を感じる。 矢野さんの格好だ。 よくアニメなので見る鎧を着ている。 そして剣を身につけており、どう見ても営業の矢野さんではない。 私は信じられない気持ちで質問をする。 「あの……カインさん? カインさんはどんなお仕事をされているのでしょうか?」 するとカインは胸を張ってこう答えた。 「俺は王子を守る騎士をしている。王子に忠誠を誓う!」 自分の胸にこぶしを当てながらカインは背筋を伸ばした。  王子に忠誠を誓う騎士。 私はカインの姿を見て納得はした。 したのだが、まだ頭の片隅ではこれは夢なのではないかと思っている。 そしてふと、どうして私はここにいるのかが気になった。 「カインさんが私をここに運んでくれたんですか?」 私がカインに質問するとカインはうなづく。 「そうだ。俺が鍛錬のために城の周りを走っていた時、お前が倒れていたんだ」 「そうなんですね。ありがとうございます」 「身体の具合はどうだ?」 「おかげさまでどこも痛くないです」 そうなのだ。 階段から落ちたかもしれないのにどこも痛くはない。 むしろベッドでぐっすり眠れて気分がいいくらいだ。 グ〜〜〜 盛大に私のお腹が鳴る。 「あっ、ごめんなさい! あはは……」 私は照れ笑いをしてごまかす。 こんな状況でもお腹はすくのだ。 「もう昼だからな。俺は今から食堂に行く。お前も一緒に行くか?」 「いいんですか! ぜひご一緒させてください」 食いつき気味の私を見て少し笑顔になったカインと一緒に食堂に行くことになった。  お城の食堂は騎士団の騎士たちで賑わっている。 食事はバイキング形式で豊富な料理が山盛りで何種類も置かれている。 大柄な騎士たちばかりなので料理の皿はすぐに空になっていく。 「なんですか、この幸せな空間は!」 大きなステーキを切りながら私はつぶやく。 どの料理もすごく美味しい。 「毎日こんな美味しい料理を食べれたら最高だろうなぁ」 しみじみと味わいながら食べているとカインが私に話しかけた。 「お前、どこから来たんだ? なんであんなところで倒れていた?」 「私にもさっぱりわからないんです。自分が住んでいた世界とここは全く違うし」 急に現実に引き戻され、食べる手が止まる。 本当に帰れるんだろうか。 不安を感じている私に気を使ったのか、カインは話を変えた。 「そういえばこの食堂で求人の募集があったぞ。城にも住み込みで働けるし、行くところがないならどうだ?」 「本当ですか? はい、働きたいです!」  こうして私は、カインの紹介でこの城の食堂で働くことになったのだった__。
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