シャーロット

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シャーロット

 私、シャーロットには前世の記憶が少しだけある。    ただそれはとても曖昧なものだ。とても愛してくれた人がいたのに、その人に向き合うまで何度か死ぬほどの目にあったと言うものだ。    でもその人の姿が思い出せない。きっと会えばすぐ分かる自信があるのに姿が思い出せないってどう言うことなんだろう?  私の今世は平凡な村娘として生まれ、両親が流行病で亡くなったため知り合いを頼り街道沿いの宿屋で働いているが、前世は、貴族の令嬢だったようだ。  前世の記憶が中途半端にあるおかげで幼い頃から読み書きや計算、他にも様々な知識があったので、宿屋でも重宝がられている。  貴族の令嬢のお相手だと王子様とか貴族の方なんだろう。とても優しくしてくださったし、ずっと一緒にいてくださった。そのことだけは忘れていない。  そんなある日、土砂降りの雨の中、宿屋に1人の男が来た。騎士だろうか体格がいい男は、ぼろぼろのマントをつけ、疲れ果てた様子でたどり着いたという感じだった。    宿屋の主人は気にしていないが、おかみさんは代金を払わずに逃げるのではないか?と警戒し前金でもらっている。    部屋に案内をしようと立ち上がった私を見た途端、彼は驚愕の表情を浮かべた後、優しく笑った。   「キャリィ…こんなところにいたんだ。迎えにきたよ。」    その瞬間、彼が私の大切な人だと気付く。瞳の色は以前とは違い髪色と同じ茶色だけど、私を見つめる眼差しは記憶を揺り動かしてくる。
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